三匹の猫たちが鐘つき台にあがってきて、くんくんとにおいをかいだ。「不思議だ」と一匹が長い髭をぴくぴくと震わせながら言った。「においはするんだが、人はいない」「たしかに奇妙だ」ともう一匹が言った。「でもとにかく、ここには誰もいない。べつのところを探そう」「しかし、わけがわからんな」そして彼らは首をひねりながら去っていった。猫たちの足音は階段を下り、夜の闇の中に消えていった。青年はほっと一息ついたが、彼にもわけはわからなかった。なにしろ猫たちと彼は狭いところで文字通り鼻をつき合わせるようなかっこうで向き合っていたのだ。見逃しようもない。なのに猫たちにはなぜか、彼の姿は見えないようだ。彼は自分の手を目の前にかざしてみた。ちゃんと手は見える。透明になったわけではない。不思議だ。いずれにせよ、朝になったら駅にいって、午前の列車でこの町を出て行くことにしよう。ここに残っているのはあまりに危険すぎる。いつまでもこんな幸運が続くものではない。
しかし翌日、午前の列車は駅には停まらなかった。彼の目の前でスピードを落とすことなく、そのまま通り過ぎていった。午後の列車も同じだった。運転席には運転手の姿も見えた。車窓には乗客たちの顔もあった。しかしそれは停まろうという気配すら見せなかった。人々の目には列車を待っている青年の姿は映っていないようだった。あるいは駅の姿さえ映っていないみたいだった。午後の列車の後ろ姿が見えなくなってしまうと、あたりはこれまでになくしんと静まりかえった。そして日が暮れ始めた。そろそろ猫たちがやってくる時刻だ。彼は失われてしまっていることを知った。ここは猫の町なんかじゃないんだ、と彼はようやく悟った。そこは彼が失われるべき場所だった。それは彼自身のために用意された、この世では無い場所だった。そして列車が、彼を元の世界に連れ戻すために、その駅に停車することはもう永遠にないのだ。
しかし翌日、午前の列車は駅には停まらなかった。彼の目の前でスピードを落とすことなく、そのまま通り過ぎていった。午後の列車も同じだった。運転席には運転手の姿も見えた。車窓には乗客たちの顔もあった。しかしそれは停まろうという気配すら見せなかった。人々の目には列車を待っている青年の姿は映っていないようだった。あるいは駅の姿さえ映っていないみたいだった。午後の列車の後ろ姿が見えなくなってしまうと、あたりはこれまでになくしんと静まりかえった。そして日が暮れ始めた。そろそろ猫たちがやってくる時刻だ。彼は失われてしまっていることを知った。ここは猫の町なんかじゃないんだ、と彼はようやく悟った。そこは彼が失われるべき場所だった。それは彼自身のために用意された、この世では無い場所だった。そして列車が、彼を元の世界に連れ戻すために、その駅に停車することはもう永遠にないのだ。