『この少女はたしかに何かを持っている。通常の人間が持ち合わせていない特殊な何かを。牛河はそう感じた。深田絵里子について彼は多くを知らない。今までに得た知識といえば、彼女がリーダーの一人娘であり、十歳の頃に「さきがけ」から単身逃亡し、戎野という高名な学者の家に身を寄せてそこで成長し、やがて『空気さなぎ』という小説を書き、川奈天吾の手を借りてそれをベストセラーにしたということくらいだ。今は行方不明になっていて、警察に捜索願が出されており、そのせいで「さきがけ」の本部が少し前に警察の捜索を受けた。
『空気さなぎ』の内容は教団「さきがけ」にとっていささか不都合なものであったらしい。牛河もその本を買って注意深くひととおり読んだが、小説の中のどの部分がどのように不都合だったのか、そこまではわからなかった。小説自体は面白くはあるし、ずいぶんうまく書かれている。文章は読みやすく端正であり、部分的には心を惹かれもする。しかし結局のところ罪のないただの幻想小説ではないか、彼はそう思った。またそれは世間の一般的な感想でもあるはずだった。
死んだ山羊の口からリトルピープルが出てきて空気さなぎを作り、主人公はマザとドウタに分離し、月が二個になる。そんな幻想的なお話のいったいどこに、世間に知られては困る情報が隠されているというのだ?しかし教団の連中はその本に関して何か手を打たなくてはならないと心を決めているようだった。少なくとも一時期はそのように考えていた。』
……作中の『空気さなぎ』という小説は現実世界の『1Q84』とリンクする。
世間の大方の人々が『1Q84』を読んで感じる感想は牛河の言葉に要約されるだろう「小説自体は面白くはあるし、ずいぶんうまく書かれている。文章は読みやすく端正であり、部分的には心を惹かれもする。しかし結局のところ罪のないただの幻想小説ではないか」
『空気さなぎ』は作中の世界で悪に抗するワクチンとしての役割を果たす。
現実の世界でも『1Q84』はワクチンとして世界に流布されているとも解釈できる。
『空気さなぎ』の内容は教団「さきがけ」にとっていささか不都合なものであったらしい。牛河もその本を買って注意深くひととおり読んだが、小説の中のどの部分がどのように不都合だったのか、そこまではわからなかった。小説自体は面白くはあるし、ずいぶんうまく書かれている。文章は読みやすく端正であり、部分的には心を惹かれもする。しかし結局のところ罪のないただの幻想小説ではないか、彼はそう思った。またそれは世間の一般的な感想でもあるはずだった。
死んだ山羊の口からリトルピープルが出てきて空気さなぎを作り、主人公はマザとドウタに分離し、月が二個になる。そんな幻想的なお話のいったいどこに、世間に知られては困る情報が隠されているというのだ?しかし教団の連中はその本に関して何か手を打たなくてはならないと心を決めているようだった。少なくとも一時期はそのように考えていた。』
……作中の『空気さなぎ』という小説は現実世界の『1Q84』とリンクする。
世間の大方の人々が『1Q84』を読んで感じる感想は牛河の言葉に要約されるだろう「小説自体は面白くはあるし、ずいぶんうまく書かれている。文章は読みやすく端正であり、部分的には心を惹かれもする。しかし結局のところ罪のないただの幻想小説ではないか」
『空気さなぎ』は作中の世界で悪に抗するワクチンとしての役割を果たす。
現実の世界でも『1Q84』はワクチンとして世界に流布されているとも解釈できる。