「でもそれとは別に、僕の人生は最近になってようやく変化を遂げつつあるみたいだ。そういう気がする。正直に言って、僕は長いあいだお父さんのことを恨みに思っていた。小さい頃から、自分はこんな惨めな狭苦しいところにいるべきところにいるべき人間じゃない、もっと恵まれた環境に相応しい人間だと考えていた。自分がこんな扱いを受けるのはあまりにも不公平だと感じてきた。同級生たちはみんな幸福な、満ち足りた生活を送っているみたいに見えた。僕より能力も資質も劣る連中が、僕とは比べものにならないほど楽しそうに暮らしていた。あなたが自分の父親でなければよかったのにとその頃、真剣に願っていた。これは何かの間違いで、あなたは実の父親ではないはずだと、いつも想像していた。血なんか繋がっているはずがないと」

「今ではそんなことは思わない。そんな風には考えない。僕は自分に相応しい環境にいて、自分に相応しい父親を持っていたのだと思うよ。嘘じゃなく。ありのままを言えば、僕はつまらない人間だった。値うちのない人間だった。ある意味では僕は、自分で自分を駄目にしてきたんだ。今となってはそれがよくわかる。小さい頃の僕はたしかに数学の神童だった。それはなかなか大した才能だったと自分でも思うよ。みんなが僕に注目したし、ちやほやもしてくれた。でもそれは結局のところ、どこか意味のあるところに発展する見込みのない才能だった。それはただそこにあっただけなんだ。僕は小さい頃から身体が大きくて柔道が強かった。県の大会では常にいいところまで行った。しかしより広い世界に出て行けば、僕より強い柔道選手はいくらもいた。大学では全国大会の代表選手にも選ばれなかった。それで僕はショックを受けて一時期、自分が何ものであるかがわからなくなった。でもそれは当然のことだ。実際に何ものでもなかったんだから」