『「しかし人の肉体は、全ての肉体は、わずかな程度の差こそあれ非力で矮小なものです。それは自明のことじゃありませんか」と青豆は言った。
「そのとおりだ」と男は言った。「あらゆる肉体は程度の差こそあれ非力で矮小なものであり、いずれにせよほどなく崩壊し、消え失せてしまう。それは紛れもない事実だ。しかし、それでは人の精神は?」
「精神についてはできるだけ考えないようにしています」
「どうして?」
「とくに考える必要がないからです」
「どうして精神についてとくに考える必要がないのだろう?自らの精神について考えることは、それが実効性を持つか持たないかは別にして、人の営みの中で不可欠な作業ではないのかな」
「私には愛があります」と青豆はきっぱりと言った。
やれやれ、私はいったい何をしているのだろう、と青豆は思った。私は自分がこれから殺害しようとしている男を相手に愛について語っている。
静かな水面に風が波紋を描くように、男の顔に微かな笑みに似たものが広がった。そこには自然な、そしてどちらかといえば好意的な感情が表れていた。
「愛があればそれで十分だと?」
「そのとおりです」
「あなたが言うその愛とは、誰か特定の個人を対象としたものなのかな?」
「そうです」と青豆は言った。「一人の具体的な男性に向けられたものです」
「非力で矮小な肉体と、翳りのない絶対的な愛…」と彼は静かな声で言った。そして少し間をおいた。
「どうやらあなたは宗教を必要としないみたいだ」
「必要としないかもしれません」
「なぜなら、あなたのそういうあり方自体が、言うなれば宗教そのものだからだよ」