child play 
初恋は実らないなら美しい。
そんな定型句にはうんざりする。
実らないならそんなもの、ただの出来損ないの苦しいだけの感情だ。
だってそうだろう、目の前の大切な人が決して同じ感情でこちらを見ないなんて。
ああ、隣で他愛ない話で笑っているのに、その髪一筋そっと触れることさえ怖くて出来ない。
「でね、部長ったらその時ね」
隣を歩く君は別の人の話を幸せそうに話す。
その目は明らかに恋する瞳だ。僕にはよく分かる。だって同じだから。
「ハハ、以外と抜けたところがあるんだな。」
彼女の言う部長とは、彼女も所属している科学部の部長の事だ。
何回か顔だけは見た事がある。2年上の先輩だから部が違えば接点などない。
ただ、彼女の口から出る部長話に勝手なイメージだけが膨らんでいく。
好きなんだ、なんて揶揄う事ができる間柄ならきっとそう言っていただろう。
ああ、なんてつまらないんだ。
彼女とは幼なじみだから、小さな頃からずっと一緒に居た。
ただの気が合う友人からほのかな恋心に変わったのは彼女から香る藤の香りにふ、と気づいた時だった。
何気なくその事を聞いた時、彼女は嬉しそうに笑って小さな香り袋を見せてくれた。
黄色に和の花柄と言ったそれは、彼女の祖母が作ってくれたらしい。
その笑顔と藤の香りがあまりに幻想的でずっと見慣れていたはずの彼女が急に大人びて見えて、中学生になったばかりとは思えなくて、同じ歳のはずなのに、随分と上に感じたのは失礼だったかもしれない。
だけどその時初めて彼女を綺麗だと思ったんだ。    
「藤の香りってなんだか儚くて幻想的よね。おばあちゃんはあの世の香りだって縁起でもないこと言うのよー」
だから、長生きしてよねって怒ったんだけど。
笑いながら体を揺らすと彼女の長い髪がサラサラと揺れた。
なんでだろうか、さっきまで気づかなかったのが不思議なくらい胸の鼓動がはげしくて、少し息苦しい。
「どうかした?」 
そう尋ねてくる彼女の顔がなぜだか見れなかった。
それから数年がたち、同じ高校に入っても関係はただの幼なじみのままだった。
彼女がそういう目で見てない事は分かっていたから、この関係すら壊れてしまうなら何も言わず少しの希望を持っている方がよほど良い。
もしかしたらまた昔みたいに気の合うただの幼なじみに戻れるかもしれないんだから。
「じゃまたね」 
他愛ない会話も学校に着いてしまえば終わってしまう。
帰りの約束も出来ないままそれぞれのクラスに行かなければならない。
1人になった俺はため息をついて教室に入る。
ああ、だれかこの感情に終わりを告げて欲しい。
ただただ初恋は甘くて苦くて切なくて苦しい。