ゆきんこの太郎は雪の精だけど、雪よりみかんが大好き。

今日も一生懸命雪を降らしながらこんな事を思っていました。

「あーあ、これがみかんだったらさぞ楽しいんだろうなぁ」

雪の精の太郎にとっては、雪なんて特別楽しいものじゃないのです。

だからすぐ近くの村の子供達が楽しそうに彼の降らした雪で遊んでいても何も感動がわかないのです。

「もしみかんが降っていたらまず何をしようかなぁ」

太郎はもしこの雪がみかんだったら、と考えました。

そうだ、とっても楽しい事があるんだ

みかんを音階毎に並べて、たたいて遊ぼう。

きっとどんな楽器にも負けない素敵な音が鳴るはずです。

そして今度は何をしよう

みかんを積んで、かまくらを作ろうか?それとも串に刺して火であぶってみかん焼きを作ろうか?

そして雪玉みたいにみかんを投げてみかん合戦はどうだろう?

でもやっぱり、うんと冷やして皮をむいて甘い中身をいっぱい食べようか?

こんなにたくさんのみかんが降ったなら全部やってもまだまだたくさんみかんが余っちゃう。

太郎はそんな事を考えながら空を見上げました。

どんなにみかんを思っても、やっぱり降ってくるのは雪です。

彼は少し悲しくなりました。

「なんでぼくはみかんの精に産まれなかったんだろう」

でも太郎は知っていました。

本当は、みかんなんて降ってきたら村中の人達がびっくりして、困るでしょう。

だって雪の水分があるから畑も春に向かって生命を育てられるから

みかんじゃそうはいきません。

それにみかんの精が良かったなんて言ったらお母さんの雪女が怒って次の冬まで家に入れてもらえなくなっちゃうかも。

「あーあ、なんて切ないんだろう」

でも、まだ子供の太郎は知りません。

みかんの精だって実は別の何かになりたいって事も、実はお母さんの雪女も昔は桜の精に憧れていたってことも。

だってやっぱり皆、違う何かになりたいものだから。

太郎はそうやってみかんに想いを馳せながら、村の子供達が自分が降らした雪で楽しそうに遊んでいる様子を眺めていました。

大きな雪だるまや雪合戦にかまくら

これだって太郎がいなければ出来ない物です。

でも、まだ幼い太郎はそれがどれだけ大切な事か、気づきません。

でも、それでいいのです。

やがて何度かの春や夏や秋が巡ったら幼い彼も大人になって、気づく事もあるでしょう。

自分だけが持っている魔法の力。

それは雪の精の太郎にしか使えない特別な物で、それが形は違っても、誰もが必ず一つは持っている笑顔になれる大きな魔法。

誰にも真似できない世界にたった一つしかない魔法なんだって。



おしまい