<フランシスコ・デ・ゴヤ(1746~1828年) >
スペイン北東部フエンデトードス生まれ。
ローマ留学を経て、40歳でカルロス3世(カルロス4世の父)付きの画家に。
そして1792年フランス革命戦争勃発の年、46歳で病気により聴力を失います。
ゴヤと同年代を生き、同じように聴力を失ったベートーベン。ナポレオンにささげた「皇帝」を作曲した例のあの人。
ベートーベンが徐々にゆっくり聴力を失ったのに対し、ゴヤは早いスピードで聴力を失いました。
映画の中で、ゴヤは神にこんなことを言います。「見る力を奪わないでくれてありがとう」と。
音の消えた世界で、ゴヤはフランス軍が丸腰市民を虐殺していく日々を生き、死体や虐殺現場をスケッチしてまわりました。
ゴヤの怒りの矛先は、「スケッチすること」「見ること」により、未来へ向けられたのでしょう。
震災時、人々が「不謹慎」に敏感になったように、ゴヤもきっと、少なくない人たちに「なんてやつだ!」だと怒りを向けられたのでは。
絵を生業にする人間が、自分の大切な人や日常が壊されている様子を、一見冷静にスケッチしているのですから。
1819年、ゴヤはマドリード郊外に別荘を構えます。その名も「聾者の家」。
レオカディア・バイスという40歳も年下彼女とそこで数年を暮らします。
彼はその家の壁に、彼はたくさんの「黒い絵」と呼ばれる絵を描きました。
黒い絵の中の一枚が『我が子を喰らうサトゥルヌス』―――しかも、これが描かれていたのは食堂の壁!
これを見ながら、彼はどんな気持ちで毎日ご飯を食べていたのでしょうね……。
その後弾圧を受け、1824年に過去に自国を攻めたフランスへ亡命。亡命先のボルドーで82年の生涯を閉じました。
ゴヤの頭蓋骨は死後に盗難に遭い、今ではどこにあるのかわかっていません。
<『我が子を喰らうサトゥルヌス』>
この絵はギリシャ・ローマ神話がモチーフ。
その昔、ウラノス(空の神様)とガイア(大地の神様)の間に生まれたのは、醜く巨大なたくさんの怪物たち……。
父ウラノスは子供たちを追放。怒った母ガイアは、末っ子であるサトゥルヌス(別名クロノス)を差し向けウラノスを殺させました。
しかし父を殺したサトゥルヌスは“自身も、自らの子に殺される運命を辿るだろう”という恐ろしい予言を受けます。
だから、自分の子が生まれるたびに、むしゃむしゃと食べてしまう。
サトゥルヌス(クロノス)は時を司る神様。アトリビュートとして、鎌や砂時計を持って描かれることが多いもの。
でも、ゴヤのサトゥルヌスが持っているのは、食いちぎられた我が子の死体。
そうして彼は、彼の子であるユピテル(別名ゼウス)に殺されるその日まで、自分の子供を食べ続けることになるのです。