2コ下のブログ

 

9月12日、MAダーチュンを観に行かせていただきました。ちょろっとXでつぶやいた通り、セットの作り込みや計算された動線が素晴らしく、緻密に設計されていることがわかりました。同じ舞台上での同時多元演技、バラバラの演技を同時進行させるだけではなく、時には合唱やシンクロまで。合唱曲でさえ他パートに引っ張られていつの間にか相手のパートを歌っているような私にはとてもできるとは思えない、高度なステージでした。素人が何を言っているんだと笑わないでください、それはもちろんそうなのですが、同時並行で次々展開してゆく複雑さに自分だとついていけないだろうなあ、という意味です。

 

 

■第一印象

 

家族と地縁を軸に、老若男女全員が出ていて、老若男女それぞれ悩みや課題がある、実社会の縮図ですね。亡くなった人との名残もありますが、誰も置いていかない、誰も切り捨てない、優しいストーリーだなあと思いました。どなたが書いたのか知らずに感想を書いていますが、書き手の人間性が表れているなあと思ったのです。

でも、きっと書いた方は(地方都市も含めて)都会生まれ都会育ちじゃないかなあと感じました。限界集落とは言わないけれど、近い将来消滅すると思われる行き詰まった地方出身者が書くともう少し違ったのかもと感じたからです。生まれた時からほぼ構成メンバーが変わらず、前世代からのヒエラルキーも固定されたまま、プライバシーなんて存在せず、数十年後自分が死ぬときまで見通せてしまうような、圧倒的な閉塞感。顔が見える規模のコミュニティでミニマムな経済圏なのだから、せめて仲よくすれば良いのにと思うのですが、そういうコミュニティに限って、絶対に相容れない複数のグループが対立していたりします。根っこはもちろん前世代からの確執もあるでしょうが、小学生の頃のいたずらだったり、恋人をとりあったことだったり、修復不可能な深さがあります。敵対勢力に対して優位に立つためならよそ者を積極的に取り込んで利用しますが、よそ者と邂逅することは決してありません。まあ、そんなんじゃお芝居が楽しくなくなるか。

 

 

特筆すべきは、複数エピソードが同時並行する部隊でしたが、それぞれの場面がとてもわかりやすかったことです。山のコル(鞍部)が、安アパートのベランダが、ちゃんと見えました。登場人物のキャラクターも早い段階で描かれていたので、混乱することなくストーリーを追えました。私事ですが、欧米の小説で、名前がカタカナの登場人物が複数出てくるストーリーは、誰が誰だかわからなくなって混乱するから苦手でした。日本人の名前なら、まだ名前と顔がイメージできるからいいんですが、マリアンナとベティとか言われてものっぺらぼうのまま、混乱したんです。だから、元々、大勢の登場人物が出てくる複雑な場面転換のあるストーリーは苦手なんだと思うんですが、本作は全く混乱なく飲み込めました。実際に役者さんが演技をしているからイメージがすぐに得られるというのもありますし、観客を置いて行かない丁寧な作りだったからじゃないかと思います。

 

しかしどうやって稽古したのかなと不思議に思いました。演劇としてのレベルが高かったと思います。最近は荒木太朗さんか、吉田武寛久さんばかり見ていたから(初心者にもわかりやすい構成だったから)、この手のビシっとしたお芝居を観たことで、久しぶりに思い出す感覚がありました。新喜劇も楽しいけれど、やっぱり頭脳の限界が試されるような、レベルの高いお芝居を観ると背筋がピシッとしますし、違った楽しさがありますね。

 

隕石っていうのも面白いモチーフでしたが、モノによって高額になることもあればそうでないこともある、その価値の分かれ目は、といった説明があってもよかったんじゃないかと思いました。せっかく見つけて手に入れた隕石が、文字通り最後は石ころ扱いになっていたのは、「まあそんだもんだよな」って思いましたが、億を超えるかもって期待させておいたので、鑑定の結果、それほど価値がないと判断されたっていう一節があるとわかりやすかったかもな、なんて。説明不要かな、しつこくなりすぎてもうるさいから、そこは行間を読めって感じですかね。

 

 

■Rinさんの演技について

 

ちょっと気弱で奥手な感じのキャラが板についていました。外で大人しく自己主張の強くない人は、家庭内では逆に結構激しい喧嘩をしたりするものですが、そんなあるあるも再現されていて、違和感なくリアルでした。

 

「他所の娘さんにはアドバイスできるのに・・・」というのも、あるあるですね。やっぱり親子というのはちょっと特別な関係なので、近所の兄貴、姉貴がいうことのほうが素直に入るっていうのもありますし。すごくシンパシーを感じながら観ていました。

 

舞台にいる誰が軸だとスムーズになるんだろう、なんて思いながら観ていましたが、やっぱり若い女の子が軸になるよりは、Rinさんくらいが安定感があっていいなあと思いました。ニヒルな雇われバーテンが軸でも面白かったかもしれないけれど、そうなるとちょっとおでん屋さんと距離が開きすぎて、ねえ。

 

 

■今回見に行った機会、その他

 

そもそも見に行ったのは、これを観ておかないとRinさんの舞台を観るのが今年最後になってしまうかもしれないと思ったからです。いつもは不順な動機で舞台に行くので、Rinさん扱いでチケットを購入させていただいたのは、初めてか、2回目くらいだと思います。久しぶりにRinさんを拝みに行きました。ワイルドなキャラも定評のあるRinさんですが、今回は大人しい真面目なキャラでしたね。

 

出演する「岡田彩花」さんが、あやかんぬさんだということは、もう一方の彩花さんの動きを把握しているから知っていたけど、パンフレットに名前があるとドキッとしますね。きっかけに利用させていただきました。久しぶりに見たあやかんぬさんはいい女っぷりが増していて、いい演技だったと思いました。

 

シンプルなセット・構成の舞台や、ジャズみたいに当座のセッションを楽しむアドリブ中心の舞台もいいけれど、こういう緻密な計算と稽古によってしっかり組み立てられた舞台を観れたのは良かったと思います。

 

客席は手作り感満載でしたが、快適で見やすかったです。適度な段差がついていたので視界を遮るものは何もなく、暑い季節でしたが空調もしっかり効いていました。平日の昼間に行ったからかもしれませんが、かなり若い、役者でもやっていそうな人達が沢山いて、真剣に見守っていたのが印象的でした。