【使命と魂のリミット / 東野圭吾 】
●あらすじ●
研修医・夕紀の勤務する大学病院に、「医療ミスを公表しなければ、
病院を破壊する」という脅迫状が。
「医療ミスはない」と言い切る西園教授。
しかし夕紀は、自分の父の死について、西園教授に疑いを抱いていた。
医師の使命とは。人の使命とは。
犯人、夕紀、西園、それぞれのリミットに間に合うのは誰か。
-----以下ネタバレアリ
重いタイトルに対し、さらりとした読後感だった。
と言うのも、裏切られた感があったから。
東野氏の作品ばかり読んでいると、ついついラスト1ページに、
どんでん返しがあるものと勝手に思い込んで読み進めてしまう。
いつもはどんでん返しに「やられた!」と思うわけだが、
今回はどんでん返しがないことに拍子抜けした、ということだ。
自分が予想していた結末
・西園はダーク。完璧に罪を立証できない形で、夕紀父の命を奪った
坊主にくけりゃ・・・で、夕紀のことをも憎んでいる
医師としての思いと、父を殺された被害者としての、
交わる事の無い感情を、夕紀により強く持たせることで、
夕紀を苦しめたいと思っている
・犯人 穣治は、犯行を遂行できないが、結果的に全く罪の無い第三者に
危害をくわえる形となる
ダブルの落胆の中でも、島原への復讐心は消えない
全てを島原に明らかにしたのち、あきらめたような表情で騙しつつ
結局島原に重症を負わし、警察は取り逃がす
色々と救いようの無い結末ばかりが想像されたが、
深読みしすぎもいいところだった。
この本に出てくる人物は、どこまでも使命と共に生きていた。
そしてその使命には、ゆがんだものなど一つもなかった。
正直、この世の中もっとずるい。
保身、嘘、名誉、金、性善説が笑う。
それを知っているから、東野氏はあえて、
綺麗な結末を選んだのだと思う。
信じられないものを信じたいのが人間。
もしくは、牽制。
社会に向けてか、私のように感覚の鈍った読者へか。
きっと、インパクトやサスペンス性は低くとも
この展開は少なくとも失敗では無かったと思う。
たまにはほっとしてもいいだろう。
そこにあるアラームに気付いてさえいれば。
島原の術後、どう申し開きをするのかとても気になるけど、
その描写がないのがまたいいのだと思う。
反省したら、胡散臭い。
しなかったらしなかったで、島原に対する不快感が強く
印象に残って、他の登場人物の正義感の意味が薄れる。
でも、夕紀父と西園との絡みは、もっとページを割いても
良かったと思う。
西園の葛藤がもっと伝われば、医師として行動したことが
感情的に訴えてくるだろうし。
七尾は、寺尾聡氏の顔を思い浮かべた。
映画「さまよう刃」では犯人役。
なんか違う気がして見ていないけど。
ドラマや映画で東野作品に興味を持った人へは
おすすめ度は高く無い。
東野作品に、良くも悪くもかぶれている人がリセットするための、
そしてその上で新しいよさを知る事ができる本。
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使命と魂のリミット 東野圭吾
ISBN978-4-04-371807-8
角川文庫 705円(税別)
初版 22年2月25日
単行本-06年12月 新潮社寄より刊行