最終話【最後の約束】
私が学校を去る前に訪れたのは、
始まりと終わりの場所。
今は立ち入り禁止になっている、
図書室だった...
一週間前に借りた本、
"あの世からの知らせ" を
まだ返していなかったからだ。
誰もいない静かな図書室に入り、
受付カウンターの上にある
返却ボックスの中に本を入れた。
これで、
返却を確認したあと
図書委員が本棚に戻してくれるはずだ。
私は受付に背を向け、
入ってきたドアへと歩を進めた。
「友香...」
私 以外は誰もいないはずなのに、
後ろから名前を呼ばれた。
それは聞き覚えのある声だけど、
聞きたくない声でもあった。
友香「詩織。いつからいたの?」
詩織「友香が入ってくる、少し前。
きっと来るだろうと思ったから」
友香「私って、最低だよね。
絶対に守るって決めたのに、
結局なにも出来なかった。
それどころか、私が茜を...」
詩織「誰も悪くないよ?
この結末を望んだのは、茜だから」
友香「どういうこと?」
詩織「"あの世からの知らせ" に
書かれていた伝承には、
続きがあったの」
友香「続き?」
詩織「"影は寿命を知る計り、
友は影を照らす灯り"」
友香「影を照らす灯り...」
詩織「"影が薄くなったとき、
身近にいる存在がその影を消す"
って意味なんだって」
友香「そんな...」
詩織「茜は学校を休んで、
ずっと助かる方法を探してた。
そして、
影を消す存在が友香だと気付いた。
私はその話を聞いて、
友香に近付かないでって言ったの。
そしたら茜、何て答えたと思う?」
友香「わからない」
詩織「"運命を変えられないなら、
最後を迎えるまでの生き方は
自分で決める。
どんな結末になっても後悔しない。
私は、友香と一緒にいたい"
だから月曜日、学校に来たんだよ。
でも影が消えた日が
寿命が尽きる日だと知って、
慌てて この図書室に来た。
二人きりで話せる場所なんて、
ほとんど無いからね...。
友香にとっては不本意だろうけど、
これが茜の望んだ結末だからさ、
あまり自分を責めないでよ」
友香「詩織は、どうなの?」
詩織「何が?」
友香「詩織と茜は、元恋人なんでしょ。
なにも出来なかった私を、
何で責めないの?」
詩織「何も出来なかったのは、私も同じ。
それに きれい事だけど、
私は茜の想いを尊重したかった。
もし私が茜と同じ立場だったら、
大切な人の傍にいたいと思うんだ。
だから茜が後悔していないなら、
私はそれで良い...
それより、
友香はこれからどうするの?」
友香「さぁね...」
詩織に背を向け、
図書室の出入口の前まで歩いた。
ドアを開けて振り返り、
もう一度 詩織を見た。
友香「さようなら、詩織...」
それだけ告げて、
私は図書室を...学校を出た。
そして この日を境に、
菅井 友香は忽然と姿を消した。
・・・・・
この一週間で、
私は多くの人の想いに触れた。
大切な人を失う、経験もした。
でも背負ったモノが
大きくて...重すぎて...
悲しみの先に続く未来を
生きていく自信がない。
だから、"私の中にいる茜" を
この場所に置いていくよ。
こうすれば、
茜の影を追いかける事も
過去を振り返る事もせずに、
前を向いて生きていけるような
気がするから。
茜、童話について話したこと
覚えてる?
"主人公の女の子が姿を消した理由"
わかったら一番に教えるって、
約束したよね。
きっと 私の出した答えが
その "理由" なんじゃないかな?
・・・・・