アメリカ映画界のスケールの大きさを痛感させられるのは、何も大作に出会った時ばかりではない。とてつもない才能を携えて新人が現れた際に感じる快感は例えようもなく、アメリカ映画界の層の広さ、土壌の深さを必ず教えられる。

 1985年に『ブラッドシンプル』を観た時にもそんな経験をした。この作品はロバート・レッドフォードが発足させたサンダンス・フィルムフェスティバルの第1回グランプリ作品である。このコンテストは若手映画人の発掘と援助を目的に作られたもので、今でこそ全世界の新人の多くが出品を望む映画作家の登竜門として名を馳せているが、開催直前までは第1回ということもあってあまり注目されていなかった。しかし傑出した内容と各パートの確かな技術を見せつけた同作は、上映と同時に世界の映画ジャーナリストたちの
探偵 度肝を抜いた。日本ではささやかな規模での公開となったが、映画を観た一握りの映画ジャーナリストから熱烈な支持を得、特に若手からは絶賛された。同作の成功はサンダンス・フィルム・フェスティバルの意義と格付けを決定する格好のサンプルとなり、同フェスティバルが現在へと発展する足掛かりを作ったのである。

 私がこの作品に出会ったのは東京国際映画祭のヤング・シネマでのこと。観る前から、好きな作家のダシール・ハメットの小説「赤い収穫」から引用したタイトルに惹かれていたこともあって待ちきれずに足を運んだのだが、スタイリッシュな映像、キャスティングのセンスの良さ、粋な演出などコーエン兄弟の才能を存分に堪能させてもらった。