有効な薬剤開発を目指して 認知症早期段階の定義確立進む | フレイルも認知症も減らない日本

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日経メディカルより。



第36回
日本認知症学会学術集会 

有効な薬剤開発を目指して
認知症早期段階の定義確立進む 

東北大学加齢医学研究所
脳科学研究部門教授・荒井啓行氏


 「アルツハイマー病の治療薬開発を目指して、バイオマーカーを用いて認知症早期段階を詳しく定義しようという動きが進んでいる。最も新しいものは、症状とは無関係に、アミロイド、タウ、神経細胞死の3つのバイオマーカーで患者を分類するものが提唱されている」。

11月24日から金沢市で開催された第36回日本認知症学会学術集会で、東北大学加齢医学研究所脳科学研究部門老年医学分野教授・加齢老年病科科長の荒井啓行氏が軽度認知障害やプレクリニカルAD(アルツハイマー病)の定義の最新動向について概説した。

 認知症は正常から連続的な変化を示すものだ。

しかし、
認知機能も日常生活の自立性も保たれているのが正常者、認知機能はやや低下しているものの自立性は保たれているのが軽度認知障害、認知機能も自立性も障害されているのが認知症と分類されていると荒井氏は紹介。

なぜ分類するかと言えば、
現在認知症治療薬として使用可能なコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬の適応が「認知症」にしかないからだ。

プレクリニカルAD(アルツハイマー病)や軽度認知障害という概念があっても治療薬を使えない。

 とはいえ、
現時点で正常や軽度認知障害例には治療薬を使うことができないため、何らかの方法で連続的に進行する認知機能低下を予防するための臨床試験を進めていく必要がある。

 昨年11月には、抗アミロイドβ抗体であるソラネズマブの軽度アルツハイマー型認知症を対象としたフェーズ3試験の結果が発表された。

しかし、
ソラネズマブはプラセボに対して有意な進行抑制効果が認められなかった。

また、
軽度から中等度アルツハイマー型認知症を対象にβセクレターゼ(BASE1)阻害薬であるverubecestatの効果を検証した試験も、有効な効果が認められる可能性が無いとして試験が中止された。

 なぜこれらの試験が成功しなかったのか。

その理由は現在2つ考えられており、
1つは治療開始が遅すぎることだ。

「より早期の段階でアルツハイマー病の診断を可能にする必要がある。そのため “MCI due to AD”(アルツハイマー病による軽度認知障害)や“prodromal AD”(前駆期アルツハイマー病)という概念が作られてきた」と荒井氏はいう。

 もう1つは、
薬剤を使うことでどの程度、脳に変化が生じるかを捕捉する精度の高いバイオマーカーがないままに臨床試験を進めてしまったことだ。

この反省を受け、
世界標準の評価法を確立するためにアミロイドPETやタウイメージングに使われるプローブの開発が進められている他、脳脊髄液中タウやリン酸化タウなど、様々なバイオマーカーの開発が進んできた。

 2011年には、
米国老化研究所とアルツハイマー病協会がアルツハイマー病の研究用基準を示した。

従来は認知症を発症した段階でアルツハイマー病としていたが、現在はプレクリニカルADとして「脳内でアルツハイマー病特有の病理変化が始まっていることをバイオマーカーで確認できれば、臨床症状の有無にかかわらずアルツハイマー病とする」という研究用の基準が設けられている。

 このプレクリニカルADは、

A(アミロイド)
N(神経細胞死)
というバイオマーカーで定義されており、

ステージ0:「バイオマーカーの変化がない」

ステージ1:Aβ蓄積が始まった証拠があるが無症状の段階

      「アミロイドPET画像で陽性または脳脊髄液Aβ42が低値」

ステージ2:脳アミロイドーシスに加えてシナプス機能異常や初期の神経変性が
      起きている証拠があるが無症状の段階

      「脳脊髄液総タウまたはリン酸化タウが高値」

      「FDG-PETで後部帯状回、プレクネウス、側頭・頭頂皮質でアルツ
       ハイマー病様の代謝低下がある」

キョロキョロプレクネウス
楔前部のことですウインク

      「MRIのVolumetryにて、アルツハイマー病と同様の萎縮パターン
       がある」

ステージ3:バイオマーカーの変化に加えて微細な認知機能低下があるが、MCI
      レベルには至っていない段階
となっている。

 米Mayo Clinicが行った、
認知機能が正常と診断された
高齢一般住民を対象とした
観察研究では、
ステージ0は43%
と最も多いが、
ステージ1は16%、
ステージ2は12%、
ステージ3は5%
存在していることが示された。

さらにアミロイドの蓄積は確認されないが、脳代謝機能の低下や脳脊髄液中タウが高値を示す例が23%存在していた。

荒井氏は「バイオマーカーを使うと一般住民の中に実際にプレクリニカルAD例が見つかってくる」と紹介する。

 日本で行われたJ-ADNI研究でも、
正常高齢者の24%が
アミロイドPET陽性で、
軽度認知障害例では75%、
アルツハイマー病例では95%
という結果が得られている。

さらに、ApoE4遺伝子を持つ人はAβの蓄積が早い段階から進んでいくことも示された。

 こうしたMCI due to AD、prodromal ADなどの定義とバイオマーカーの検討が進んだ結果として、最近ではより早期の段階を対象とした抗アミロイド薬の臨床試験が進められている。

 最後に荒井氏は、「アルツハイマー病は様々な病態生理プロセスが重層したものだから、研究のフレームワークとしては、臨床症状とは関係なく、バイオマーカーや死後病理変化で明記されるものであるというATNシステムで評価するという考え方が米国から提唱されている」と紹介。

 AはアミロイドPET、
脳脊髄液中Aβ42量、
もしくはAβ42/40比

 TはタウPETや
脳脊髄液中のリン酸化タウ量

 NはMRI所見、
FDG-PET、
脳脊髄液中の総タウ量

で、A、T、Nのそれぞれを評価しようというものだ。「まだカットオフ値などが定義されておらず、検討が進められているが、治験を進める上で患者の登録基準に活用されていくのではないかと注目している」と荒井氏は語った。