降圧剤により
認知症にされた患者さんは
存在するでしょう。
nounowより。
血圧は低すぎても
高すぎても認知症リスク
高血圧が認知症リスクを上げることはよく知られていますが低すぎる血圧はどうなのでしょうか?
血圧と認知症リスクに関する
論文をいくつかご紹介します。
体にとってちょうどよい血圧とは
収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上、拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上の時に、高血圧と診断されます。
日本は塩分摂取量の多い国であり、高血圧の患者が多いといわれています。塩分を摂りすぎていると、濃度をうすめるために体が反応して血管の中の水分量が増えます。
結果的に、増えた血流が血管のかべを圧迫して高血圧となり、動脈硬化を促進します。
高血圧は怖いことに、自覚症状がないことがほとんどです。そのため、知らない間に全身の血管が硬くなり、気付いた時には心筋梗塞や狭心症、脳卒中、腎不全などの病気を発症する危険があります。
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/bp/pamph84.html#s3b (出典:国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス)
では、
血圧は低ければ低いほど
よいのでしょうか。
最近の研究では、血圧が低すぎてもよくないことがわかっています。日本腎臓学会は、血圧が低いことによる腎臓への障害を懸念し、収縮期血圧が110mmHg未満まで血圧が下がっている時には血圧を下げる薬の調整を検討するように推奨しています。
高血圧はCKDの進展に影響を及ぼすか?(出典:エビデンスに基づくCKD推奨ガイドライン2013)
高血圧は認知症リスクを上昇させる
高血圧は動脈硬化を促進するので、認知症の発症リスクを上昇させる可能性があることは以前から指摘されていました。
例えば、日本で行われた久山町研究では、正常の血圧の方に比べて高血圧4.5-5.6倍も血管性認知症の発症リスクが上昇することがわかっています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21555680
2015年8月には、アメリカの研究チームがアルツハイマー病の60%以上において高血圧や肥満、うつ病、喫煙、糖尿病などが関連していることを報告しています。
http://jnnp.bmj.com/content/early/2015/07/27/jnnp-2015-310548(出典:Journal of Neurology,Neurosurgery&Psychiatry)
また2016年10月には、米国心臓協会が「Hypertension」誌で高血圧がある人は認知症になりやすい傾向があると声明を出しています。高血圧が脳の血管を傷つけ、動脈硬化を促進するためだと考えられています。
http://hyper.ahajournals.org/content/early/2016/10/10/HYP.0000000000000053(出典:Hypertension)
血圧を下げ過ぎても認知症にはよくない
高血圧は、少なくとも認知症の発症リスクになる可能性があると今までの報告でいわれています。
では、血圧は低ければ低いほどよいのでしょうか。その疑問に答える研究報告を紹介します。
イタリアの研究チームは、認知機能が低下した高齢者において、昼間の血圧が低すぎると認知機能が悪化することを2015年4月に「JAMA Internal Medicine」誌に報告しました。
研究チームは、物忘れ外来のある2つの診療所に通っている認知障害のある65歳以上の患者193名を対象に、昼間の血圧の平均値が認知機能にどのように影響しているか解析しました。
全体の73.3%が高血圧を合併しており、69.8%が血圧を下げる薬を内服していました。昼間の血圧の平均値で、収縮期血圧128mmHg以下のグループ(56人)、129-144mmHgのグループ(59人)、145mmhg以上のグループ(57人)の3つにわけました。
結果としては、昼間の血圧の平均値が128mmHg以下と低いグループでは、その他のグループに比べて認知機能の低下が大きいことが明らかになりました。
また、この傾向は降圧薬を内服している患者において認められることがわかりました。
今回の研究結果から、
認知障害のある高齢者に対して降圧薬で過剰に血圧を下げると、かえって認知機能障害を悪化させる可能性があることがわかり、収縮期血圧は130-145mmHg程度を目標とするとよいのではないかと研究チームは結論付けています。
高齢者において、血圧を下げ過ぎてはいけない理由として挙げられるのが脳神経系の自己調節機能の低下です。
簡単に言うと、若い時のようにうまく調整できなくなるということです。脳の血流を十分なレベルに維持するためには血圧をある程度高く保たないといけません。
しかし、降圧薬などで血圧を下げ過ぎてしまうと脳血流が低下し、認知機能に影響を及ぼす可能性があるといわれています。
今回紹介した研究結果から、血圧は高すぎても低すぎても認知機能にとってよくない可能性があることが明らかになっています。
今後も、血圧と認知機能に関する研究はさかんに行われると予想されますので新しい研究結果にも注目していきましょう。
<参考論文・参考資料>
JAMA Intern Med. 2015 Apr;175(4):578-85. doi: 10.1001/jamainternmed.2014.8164.
Effects of low blood pressure in cognitively impaired elderly patients treated with antihypertensive drugs.
Mossello E, Pieraccioli M, Nesti N, Bulgaresi M, Lorenzi C, Caleri V, Tonon E, Cavallini MC, Baroncini C, Di Bari M, Baldasseroni S, Cantini C, Biagini CA, Marchionni N, Ungar A.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25730775