大人になるというのは


すれっからしになることだと


思い込んでいた少女の頃


立居振舞いの美しい


発音の正確な


素敵な女のひとと会いました


そのひとは私の背のびを見すかしたように


なにげない話に言いました




初々しさが大切なの


人に対しても世の中に対しても


人を人とも思わなくなったとき


堕落が始まるのね  堕ちてゆくのを


隠そうとしても  隠せなくなった人を何人も見ました




私はどきんとし


そして深く悟りました


大人になってもどぎまぎしたっていいんだな


ぎこちない挨拶  醜く赤くなる


失語症  なめらかでないしぐさ


子供の悪態にさえ傷ついてしまう


頼りない生牡蠣のような感受性


それらを鍛える必要は少しもなかったのだな


年老いても咲きたての薔薇   柔らかく


外にむかってひらかれるのこそ難しい


あらゆる仕事


すべてのいい仕事の核には


震える弱いアンテナが隠されている  きっと…


わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました


たちかえり


今でもときどきその意味を


ひっそりと汲むことがあるのです








大好きな詩です。

定期的に読みたくなる詩で

昔は励ますように

今は戒めるように

心に響きます。


以前ドキュメンタリー番組で俳優さんの話を聞きました。

いい俳優さんほど、繊細な方が多くいそうです。

国民的映画「男はつらいよ」主演の渥美清さんは

映画の中とは対照的に撮影現場では無口。撮影が終わるとサッと帰ってしまい、打ち上げなどには参加されなかったそうです。

繊細さゆえに仕事や職場の人間関係で疲弊してしまう方へのアドバイスを読んだときも

やはり、繊細だからいい仕事ができる、と

茨木のり子さんの「汲む」の内容に近い回答でした。


繊細で辛いのは本人。

だけれども、繊細さを直す必要はない。

そんなアドバイスが印象に残っています。


年齢を重ねて

私は随分と図太くなったと思います(笑)

それはそれでいいと思っていますニコニコ


だからこそ

茨木のり子さんのこの詩「汲む」が心に沁みます。


これから先も

自分への戒めとして

やはり、励ましにもして

大事に読みたい作品です。




読んでくださりありがとうございます😊