リベロの仕事は拾うこと
エースの仕事は決めること
~ふたつの太陽~
「旭さぁぁぁん!!」
「こ、こら西谷、入り口でそんな大声出さないでっ」
東峰の教室の前、西谷は堂々と仁王立ちをして旭を待っていた。
あれから毎日、西谷は東峰を部活に行くとき迎えにいっている。
澤村はそこまでする必要ないぞ、と西谷にいうのだが、西谷は一度やりだしたら言うことを聞かない。
東峰のクラスでは最初こそ驚いてはいたものの、今ではすっかり慣れ、名物のようになっていた。
「こんなさ、毎日来てくれなくても俺ちゃんと部活行くんだけどなぁ」
「ダメっすよ、ちゃんと毎日来るって決めたんですから」
体育館に向かう西谷は随分と早足で、東峰がそれを慌てて追いかける。
体格は違えど、中身的にはどちらが先輩かわからない。
…本当、こいつは凄いなぁ
東峰はいつも西谷を尊敬していた。
その背中は本当たくましくて、西谷が「絶対大丈夫」といえば大丈夫だと思えてくるようで。
「本当、お前ら正反対だもんな~」
部活終了後、着替えだのなんだのをしているときに菅原が笑いながら呟いた。
「見た目的にはゴリラと猫なのにさ、なんていうか~…中身?がチワワとライオンじゃん」
「ゴリっ……」
ゴリラ、という言葉に東峰が相当なショックを受ける。
自分のいかつい見た目をとんでもなく気にしている東峰の心を笑顔の菅原が容赦なく貫くのだ。
「俺ライオンすか‼‼‼かっけぇ‼‼‼」
目を輝かせながら喜ぶ西谷に東峰は苦笑いしながら
「そこ喜ぶところなのか…」
と小さく呟き、溜息をついた。
「なんか名前も真逆だし、ひっとつも共通点ないな」
「そ、そうかなぁ…」
菅原と東峰のやり取りを横目に、西谷はさっきとは打って変わってむっと頬を膨らましながら不機嫌そうに帰りの支度をしていたが、誰もそれには気付かなかった。
「…な、なぁ俺なんかした?」
帰り道、やけに機嫌が悪そうな西谷にようやく気付いた東峰がオドオドと尋ねる。
西谷は拗ねたようにそっぽを向いて「別に」とだけ言った。
東峰はどうしたらいいかわからず、ただ焦っていた。
東峰はこんなに不機嫌で怒った西谷はあまり見たことがない。
あるといえばあるが、それはあまり東峰にとっても西谷にとってもいい思い出ではないのだ。
でもまぁ、その事件があってこその今がある。
折れたモップだって、今も残ったままだ。
あれからもう、
「大分経ったんだよなぁ…」
「…え?」
つい口に出してしまったことにようやく自分で気が付いたのか、不思議そうにする西谷に「あ、いや、その」と慌てる。
「……いや、俺たちいろいろあったよなって。もう思い出になっちまった、結構経っただろ?」
思い出すのは、随分昔の話のようで、つい昨日の事のような記憶。
『俺が繋いだボールを、アンタが勝手に諦めんなよ‼‼』
今でも鮮明に、はっきりと覚えている。
つい口元が緩む感覚、西谷は何も言わずに東峰を見つめていた。
「俺情けないからなー…西谷にも迷惑しかかけてないよな、俺西谷いなかったら今頃どうなってたことか…」
頭を掻いて呟く。
なんでこんなこと言っているのか、自分でもわかっていなかった。
ただなんとなくなのだが、今言わなければと思ったのだ。
「まぁなんていうか…いつもありがとな、西谷」
ぽかんとしている西谷に東峰は素直な気持ちを晒して、微笑んだ。
「あ、あー……あざす…」
ストレートに言われることに慣れてはいる。
正直自分自身もそうだからだ。
でもなぜだろうか、すごくうれしいというか、恥ずかしいというか…
西谷はむず痒い気持ちになった。
東峰のきれいな笑顔と、ありがとうのたった五文字に
まともな返事もできなかった、自分らしくない自分。
「…あ、そうだ西谷、何を怒ってたのか…聞いてもいい?」
急にまた小さくなった東峰に少しがっかりしつつも、西谷は先ほどの出来事を思い出した。
「…共通点」
「え?」
「俺と旭さん、共通点ないって」
思い出すとまた少し機嫌が悪くなったのか、頬を膨らましてうつむいた。
東峰は西谷の言葉があまり理解できなかったのだろう、少し考えるようにして
「あ、さっきスガと…」
やっと思い出したように呟いた。
「共通点ないって‼‼あるっすよね‼‼」
しかめっ面でずいっと近づき、大声を張り上げる西谷に東峰はビクっと肩を揺らし、「は、はいっっ」と甲高い悲鳴に近いような声を上げる。
「バレー大好きなとことか…一緒っすもん」
西谷は東峰が大好きだった。バレーと同じくらい。
だからこそ、共通点がないと言われるのが悔しくて、寂しかった。
「…あぁ、そうだな」
東峰は優しい口調でそういうと、西谷の頭をそっと撫でた。
普段は頼もしくて、頼りになって、たくましくてかっこいい西谷も、本当はこんなにも小さい。
東峰にはそれがどうしようもなく愛おしかった。
「西谷と俺のバレーに対する情熱はきっと、似た者同士だからな」
「はいっっ‼‼‼」
東峰が言えば、西谷はパッと明るい表情になり、元気よく返事をした。
同じ太陽でも、朝日と夕日は誰から見ても対照的で
絶対に交わることはないけれど
その胸の中にある想いは変わらない
熱い想いが二人を照らし、映し出すのだから
二人は対照的で、根本は同じ太陽なのだ
二人の太陽は一つであって、一つではない
二つは存在せず、一つではない
fin