昔、
桃の節句の時分になると、
母は得意の祭りずしを作っていた
パーキンソン病を患ってからは、
凝った料理ができなくなり、
特に父の介護が大変だったこの3年間は、
料理どころか何にもしない無気力な母がいた
その後、
父が亡くなり半年が経ち、
悲しみとストレスから解放された母は、
急にお寿司が作りたいと言い始めた。
仕事が休みの日にふたりで具材を買いに
スーパーへ行く
筋力が無くなり、
包丁が上手く使えなくなった母。
なるべく簡単に作れるように、
具材は細かくカットされたものを購入する。
混ぜるだけで出来るから
手が震えるからと、
錦糸卵は作って欲しいと私に言う。
卵だけは私が焼いて、
後は母に任せることにした。
我が家で一番大きな桶。
「この寿司桶、昔おとーさんが山登りの大会で優勝した時の賞品なんよ〜」
山登りの大会
クロスカントリーのことか
父は現役の頃は消防士で、
体を鍛えていたことを思い出す。
高校生の頃は陸上部で駅伝の選手だったらしい。
父は山登りの大会
で獲得した賞品の寿司桶を背中に担ぎ、
バイクで自宅まで帰ってきたらしい
しかしクロスカントリーの優勝賞品が
寿司桶とは・・・
結局母は途中で力尽き、
盛り付けはいつものごとく私がすることに
母がコタツで寝ている間に、
私は晩酌
筋力が無くなり、手の震えが止まらない母。
混ぜ方の足りない寿司飯は、
昔と違う味がする。
だけどなぜか懐かしい味。
もしかしたら、
もう母はこのお寿司を作ることが出来ないかも。
この寿司桶は私が引き継いでいく。
両親の思い出が詰まった寿司桶だから