(1)苦悩/在院日数縛る報酬制

 「一つの病院に長くいることができない」「90日で転院を求められた」「入院前に転院先を聞かれた」―。私たちはこれまでの取材で遷延性意識障害の患者家族から、安心して治療、療養を続けられない実情を訴える言葉を幾度となく聞いた。病院側はなぜ、重い障害を負った患者らの希望に沿うことができないのか。ある医師から届いたメールを手がかりに、立ちはだかる医療、介護制度の「壁」を考える。(「いのちの地平」取材班)=第4部は7回続き。

 <治療してあげたいが思うようにいかない><意思を表せない患者の思いを伝えてほしい>
 メールの主は上山市で病院と福祉施設を運営する医療法人「みゆき会」の医師だった。文面には多くの遷延性意識障害の患者と向き合う中で、直面する苦悩がにじんでいた。
 みゆき会は病院と介護老人保健施設、介護支援事業所などを運営し、医療と福祉の連携を目指す。病院は一般87床などベッド数計183。このうち療養病床は46床で、患者の半数以上に重い意識障害があるという。

<退院時期を意識>
 病院経営の実態を理解するためには、まず一般病床の診療報酬の仕組みを知る必要がある。
 「治療が主となる一般病床は診療報酬に日数の縛りがある。どうしても職員は退院時期を意識してしまいます」
 みゆき会病院で入退院支援を担当する医療福祉相談課の赤城教之さん(34)が説明した。
 一般病棟の診療報酬には、病棟全体の平均在院日数を基に算出される基本料と、それぞれの患者の在院日数で決まる入院加算があり、病棟経営の両輪になっている。
 平均在院日数は、患者数に対する看護職の割合などで四つに分類される。基本料は患者1人当たり1万5550~9340円で、看護職が多いほど高額になる。
 患者10人に対し1人以上の看護職を配置するみゆき会病院の場合、「平均在院日数が21日以内」との条件が付く。これを満たさないと、診療報酬が格下げ(患者13人に看護1人以上)になり、少なくとも年間6000万円の減収になる計算だ。
 入院加算は30日以内限定で、14日以内は4500円、15~30日は1920円。90日を超えると"ペナルティー"として、基本料も9280円に減額される。
 こうした規定を見ると、一般病床では入院が長引くほど、病院の経営が圧迫されるのが分かる。

<10人前後が待機>
 一方、療養病床は在院日数を基にした報酬体系ではない。ならば長期入院が可能かというと、「そうもいかない事情がある」と赤城さんは話す。
 「老老介護や独り暮らしといった事情で在宅で介護できない家庭が多く、療養病床は常に埋まっている。その影響で、一般病棟でも療養病棟の待機患者が常に10人前後出ているため、転院を相談することもあります」
 ことし1月9日、療養病棟で毎月恒例の誕生会が開かれた。2日前に82歳の誕生日を迎えた山形市の会田久江さんも主役の一人。病室には看護師や介護士の歌声と手拍子が響いた。
 久江さんは自宅近くの介護施設で心肺停止に陥った。一命は取り留めたものの遷延性意識障害になり、2010年3月から療養病棟に入院している。長男の充男さん(59)は8月、他の病院などへの転院について説明を受けた。
 「誕生日を祝ってくれる病院は初めて」と話す充男さん。「良くしてもらっている病院に迷惑は掛けられない。長くお世話になりたい気持ちはあるが、転院の覚悟はできている」と複雑な胸の内を明かした。