鮮やかな黄色いポルシェ911カレラRS 2.7が見える。歩道橋の300メートル手前まで来た。時速120kmは出ている。「スゲェー! ナナサン・カレラだぜ!」と、二河の右側でだれかさけぶ。1973年発売だから、「ナナサン」である。歩道橋にいたのは、二河だけではなかった。

 声の主は、土曜日にいつも自転車でやって来る、3人の中学生のひとりだった。公道上での無謀運転をウォッチするギャラリーである。

 ポルシェは シフトダウンして、急激に減速した。シフトダウンは3回で、車の前部がその都度、地面に向かって、激しく沈み込む。

 中学生のひとりが、「なんやー、つまらんのー! 1速まで落としやがった!」と、カクッと首を垂れる。中学生のくせに、車にくわしい。

 時速20kmぐらいまでスピードを落としたポルシェが、歩道橋の下の交差点に侵入した。その瞬間、右への急ハンドルを切る。様子を見るために、二河も、中学生たちも、地から足を離し、手すりの上に身を乗り出した。

 右に旋回したポルシェの後輪が左にドリフトし始めた。小刻みに、断続的に、エンジン音が吹き上がる。その音が止まった瞬間、エンジンに大きな負荷がかかり、その衝撃で、深夜の空気がゆれた。後輪のドリフトはまだ止まらないが、勢いは弱くなり、ポルシェが半径20メートルほどの弧を描きながら、きれいに交差点内でUターンする。侵入してから180度回転したところで、ドリフトは止まり、ポルシェは立ち上がるように、そのまま、もと来た道をもどって行った。

 中学生らが、ポルシェの後ろに向かって、奇声を上げ、喝采を浴びせ、口笛を吹く。二河は安心したように、ため息をついた。