私はサラリーマン時代を含め現在も営業職一筋だ。物を売る、仕事を取って来る以外のことはほぼできない。サラリーマン時代は実績を上げることで上司の指示を無視するどころか、面と向かって「私に指示や命令は不要です」と言い放ったことすらある。だから、物を売ることや、仕事を取って来ることに強いこだわりがありる。したがって、新規開拓ができると非常に嬉しいし、幸せですらある。この感情がある限り、営業では誰にも負けないという自負があった。

 

ところが、ここ半年ほど前から何故か新規の顧客からの発注が疎ましく感じるようになった。それは売掛金の回収ができるか不安になるからだ。だから、新規顧客に対して「前金で全額頂きたい」などと言うようになった。そんなこと言われれば顧客からすると「新規の業者に何で仕事をする前にカネを払わなくてはならないのだ」ということになる。思い起こせば、新規顧客の売掛金が回収ができるか否かなどということは自分で会社を始めた時から同じことなのだ。

 

自分でもどうしてそんな気持ちになってしまったのかさっぱり分からず、その理由を考えてみた。先ず、自分が歳を取って保守的になり、新規顧客の開拓意欲を失ったのではないかということだ。その次は信頼していた人にカネを貸したのだが、いろいろ理由をつけて返金されないことで猜疑心が強くなったのかも知れない。また、既存顧客だけで十分利益があがり、税理士と節税について協議を重ねるうちに新規開拓が馬鹿らしく感じるようになった可能性もある。

 

よくよく考えれば、私が仕事をしているのは人並に暮らせるように生活費を得て、少しの老後資金を蓄えたいと思っているからだ。業績をあげて会社を大きくしたい訳ではないし、成功して有名になりたいという顕示欲がある訳でもない。そして、ふたりの子供もそれぞれ独立して、子育てからも解放されている。ありがたいことに母親も希望すれば高齢施設に入居できる資金があり、年金も受け取っている。私が仕事を頑張る理由がなくなっているのかも知れない。