200412日、大阪府堺市の建設作業員鈴木勝明37)は、和泉市府中町の浅井健治さん(74)宅の敷地内にある会社事務所で、浅井さんと妻であるきよさん(73)を鈍器で頭部を殴って殺害した。その後、鈴木は浅井さんの高級腕時計ロレックス個(計約140万円相当)と、きよさん名義の乗用車(約100万円相当)を奪った。浅井さんは元カーペット製造販売会社社長だった。鈴木は当時、消費者金融などに数百万円の借金があった。

 

鈴木と浅井夫婦は過去に面識があった。鈴木は2003月、大阪府泉南市の建設会社に入社したが、この会社は浅井さん宅の新築工事を手がけていて、鈴木も工事を担当していた。鈴木は集金した工事代金を会社に振り込まなかったり、浅井さん宅から、高級腕時計や多額の現金がなくなることが頻発したため、建設会社の社長が鈴木を問い詰めたが、鈴木は完全否定した。だが、こうしたトラブルを理由に、鈴木は2004月に解雇されていた。

 

事件翌日の12日、夫婦宅の敷地内にある事務所階の床に血痕があるのを長男が発見する。長男は両親と連絡が取れなくなっていことから、大阪府警・和泉警察署に捜索願を出。これを受け、和泉警察署は捜査を開始。会社事務所から、血痕毛髪を採取した。それらの一部を鑑定した結果、いずれも浅井夫婦のものだった。また、失踪に第三者が関与した形跡もないことから、残りは鑑定しないまま「事件性は低い」と判断、捜査を中断した。

 

一方鈴木は事件当日の昼頃、泉佐野市内の質屋に浅井さん宅から奪った高級腕時計を持ち込み、現金50万円を受け取った。その後、鈴木はホームセンターでドラム缶個を購入したり、過去に利用した質屋に利息を支払うなどして、事件で得た50万円のうち、数日間で約40万円を使った。事件から日後の12日、鈴木は阪南市新町の「シャッター付き貸ガレージ」を借りる契約を結び、賃料か月分保証金を併せて6千円を支払った。

 

鈴木はここに夫婦の車を駐車して、ふたりの遺体をドラム缶に入れてガレージ内に放置した。その後、鈴木は夫婦の失踪当日の12日から、ガレージを借りた12にわたって夫婦が生きていることを装うために、浅井さんの携帯電話から「温泉でゆっくりする。心配しないで」「会社事務所の血痕は妻の鼻血だ」など、数通のメールを親族に送信している。親族は浅井さんに電話をかけ直したが、ドライブモードに設定された状態で、連絡は取れなかった。

 

鈴木は貸ガレージの賃料を1か月分だけ支払い、は鍵も返さず連絡を絶っていた。貸ガレージ側も、その後の借り手がつかなかったとこから、そのまま放置して中を確認することもなかった。夫婦の失踪から年後20091121日、ガレージの管理者、ある契約者から「もう台分ガレージ借りたい」という申し出を受け。そのため、鈴木が借りていたガレージのシャッターを開けたところ、中に車が台と水色のドラム缶個が放置されているのを発見した。

 

ガレージ管理者は1123日、大阪府警・泉南警察署に「不審な車とドラム缶個がある」と通報した。これを受け、1125午後、泉南署員がドラム缶を確認したところ、中から男女とみられる遺体を発見。遺体は腐敗が激しく、死後数月から数年経過していると推測された。車のナンバープレートを照会した結果、捜索願が出されていた浅井夫婦のものと判明。大阪府警は、遺体はこの夫婦の可能性が高いとみて、死体遺棄事件として捜査を開始した。

 

 

1126日、大阪府警の捜査によって夫婦が失踪した直後の200412日と日、夫婦の所有していた車が国道26号を走行し、和泉市付近から阪南市方面に向かう複数の地点を走行していたことがカメラの記録映像から判明した。大阪府警は夫婦が何らかのトラブルに巻き込まれたか、何者かによって連れ去られた可能性があるとみて捜査した。そして、遺体が浅井さん夫婦であることを確認。死亡推定時期は失踪時期の200412月頃であった

 

大阪府警はガレージの最後の借り主」である鈴木が事情を知っている可能性が高いとみて1126日、重要参考人として事情聴取。その結果、鈴木が過去に夫婦宅の工事を手掛けていた』『夫婦の失踪直後の12日、鈴木は駐車場を契約した後、管理者との連絡を絶っていた』『夫婦会社事務所から預金通帳などがなくなっていた』などの事実が判明。死体遺棄罪は時効が既に成立しており、大阪府警は窃盗容疑で鈴木を逮捕厳しく追及した。

 

夫婦の遺体はいずれも寝巻姿で、失踪当時、寝室の掛け布団はめくれいたことから、「夫婦が寝ていたところ異変を感じ、事務所に様子を見に行っ、何者かに殺害された」と推測された。取り調べで鈴木は「腕時計を質入れした」「ガレージを借りた」「夫婦の車をガレージに駐車した」という点については認めたが、その動機を「知人に頼まれた」と供述した。そしてドラム缶については「ガレージを借りたときはなかった」と説明窃盗殺害死体遺棄への関与否定した。

 

大阪府警は車を検証した結果、車内からガレージの賃貸契約書』『浅井さんの腕時計の保証書が発見されたほか、血痕も検出した。また、鈴木宅を家宅捜索し、ガレージの鍵』『浅井さんの腕時計を質入れした際の預かり証を押収していた。2010日までに、車から検出された血痕は夫婦のものであることが判明し、大阪府警が鈴木を再追及したところ、「ある人物に頼まれ、夫婦の遺体をガレージに車で運び、ドラム缶に移した」と死体遺棄容疑を認めた。


鈴木は夫婦の死体遺棄依頼した人物に関しては「連絡先は知らない」など曖昧な供述に終始し大阪府警はその存在は確認できなかった。鈴木は殺害については否認を続けていた。しかし事件発生から丸年となる201012日、大阪府警は鈴木が夫婦を殺害したとして、強盗殺人容疑で再逮捕した。自供や凶器などの物的証拠は得られなかったが、大阪府警は年余りにわたる捜査で、状況証拠を積み重ね、強盗殺人容疑での逮捕に踏み切った

 

大阪府警は「浅井さんの高級腕時計」を質入れして入手した約50万円の大半は鈴木がひとりで使い切っていたことや、現金を他人に分配した形跡はなかったことから、鈴木が主張する第三者が存在しないことを裏付ける事実と推定していた鈴木は12日までに、浅井さんの携帯電話から親族に生存を装うメールを送信したことを認める供述をした。鈴木は「闇金業者から偽装を指示された」と説明したが、大阪府警は鈴木による偽装工作とみて追及した。

 

20101224日、大阪地検は鈴木を強盗殺人罪で大阪地裁に起訴した。この時点でも鈴木は黙秘を続けており、物的証拠などの直接証拠も乏しいが、状況証拠から有罪の立証が可能と判断した。201320日、大阪地裁で初公判が開かれた。冒頭陳述で、検察側は「鈴木勝明被告は、遺体の見つかったガレージを借りており、犯行直後には夫婦の高級腕時計を質入れした」などの状況証拠を挙げ、「犯人は鈴木被告で間違いない」と主張した。

 

一方弁護側は「被害者らを殺害した真犯人は鈴木被告が説明するように被告とは別のふたりの男推定される」と主張した。そして、事件後に大阪府警が採取した血痕などを鑑定せずに紛失してしまったなど杜撰な証拠管理であったことや、取り調べに警察官が鈴木被告を怒鳴りつけるなど、違法な捜査が行われていたとして、公訴棄却を求めた。罪状認否において、鈴木被告は夫婦殺害についての起訴事実を全面的に否認し、自身の無罪を強く主張した。

 

201310日、論告求刑公判が開かれ、検察側事件前年の2003年、鈴木被告は夫婦宅に新築工事で出入りしていた』『遺体が発見されたガレージを借りていた』『事件直後、奪われた浅井さんの腕時計を質入れした』などの状況証拠を挙げたうえで、「鈴木被告が犯人であることは明らかであり、残虐冷酷な犯行だ。鈴木被告は終始、不合理な供述に続けており反省していない。被告の矯正は不可能」として、鈴木被告に対し、死刑を求刑した。


弁護側は最終弁論において、「真犯人は鈴木被告とは別のふたりの男であり、被告被害者らの殺害に関与していない。検察側は状況証拠だけで鈴木被告を犯人視しているが、直接的な物的証拠は何ひとつく、憶測にすぎない」として、検察側の死刑求刑に反論し、無罪を主張した。最終意見陳述で、鈴木被告は「遺体の損壊遺棄に関与したのは事実で、本当に申し訳ない」と謝罪したが、「殺害は絶対にやっていない」と述べ、この日で公判は結審した。

 

201326日、判決公判が開かれ、大阪地裁は鈴木被告に対して、求刑通り死刑判決を言い渡した。裁判長判決理由説明で「鈴木被告が遺体をガレージに運搬遺棄した」「事件直後、鈴木被告被害者から奪った腕時計を質入れして得た50万円をすぐに使った」ことを認定し、「いずれも鈴木被告が犯人である証拠」と指摘した。そのうえで、「弁護側が主張するように、鈴木被告が犯人でないとするならば、合理的な説明がまったくきない」と述べた。

 

そして、弁護側の「真犯人は別の男ふたり」との主張に対しては、「徹底した裏付け捜査を尽くしたにもかかわらず、そうした男らの存在は確認されていない。鈴木被告が架空の人物を作り上げているとしか考えられない」と退けた。そして、「何ら非のないふたりの命を奪った非人間的で冷酷な犯行である。鈴木被告には反省悔悟の気持ちがまったくなく、改善矯正する可能性はない」と述べて指弾した弁護側は判決を不服として、大阪高等裁判所に即日控訴した。

 

201430日、大阪高等裁判所で、控訴審初公判が開かれた。弁護側は「真犯人は鈴木被告別の男ふたりであり、被告は殺害には関与していない。被害者殺害と鈴木被告を結びつける客観的な物的証拠がないにも関わらず、捜査機関が作り上げたストーリーに沿って、被告を犯人と認定した第一審判決ははなはだ疑問である」と主張し、改めて無罪を主張した。一方、検察側「弁護側の主張は不合理」とし、鈴木被告の控訴を棄却するよう求めた。

 

20141219日、控訴審判決公判が開かれ、大阪高裁は控訴を棄却する判決を言い渡した。判決理由で裁判長は「鈴木被告が遺体を遺棄したこと、被害者の腕時計を質入れして得た50万円の大半を使っていたことから、鈴木被告が犯人であることは明か。別人物の存在をうかがわせる証拠もなく、第一審の判断は妥当」と認定した上で、「非人間的で冷酷な犯行であり、極刑をもって臨むしかない」と結論付けた。弁護側は最高裁判所に即日上告。

 

201711日、最高裁で、上告審口頭弁論公判が開かれ、結審した。弁護側は鈴木被告の犯行を裏付ける物的証拠がないことを根拠に「犯行状況などから、真犯人が別にいる可能性がある」として、無罪を主張した。検察側は「第三者の関与を示す証拠はな」と反論し、上告棄却を求めた。201712日、上告審判決公判が開かれ、最高裁は一審二審の死刑判決を支持して上告を棄却鈴木勝明被告の死刑が確定することとなった。

 

鈴木勝明196713日生まれ1984年に高校を中退後、2005月までの間に、大阪府内の電気会社や建設会社など計社で入退社を繰り返していた。2003月、大阪府泉南市の建設会社に入社した。この会社は本事件の被害者になる大阪府和泉市府中町の浅井健治さん宅の新築工事を手がけていた。鈴木も2004月から月にかけ、この工事に作業員として給水工事の手伝い土の埋め戻しなど、力仕事を担当した。

 

浅井さんは織物製造・販売会社の元社長だった。鈴木は浅井さん夫婦と面識はあった。20031122日頃、鈴木は浅井さんの妻であるきよさんの高級腕時計を盗んだ。ほかにも「集金した工事代金を会社の口座に振り込まない」「浅井さん宅から多額の現金がなくなる」などのことが頻発したため、建設会社の社長が鈴木を問い詰めたが、彼は「絶対に知りません」と否定した。こうした数々の金銭トラブルを理由に、社長は2004月、鈴木を解雇した。