清田龍也
今回、ご紹介する「川口市強姦殺人事件」は私の自宅近所で起きた事件で特に印象深い。2007年10月30日、川口市柳崎のアパート2階で、会社員の渡辺沙織さん(26)が何者かに強姦された上で殺され、現金8000円とキャッシュカード3枚、運転免許証を奪われた。11月1日、女性の無断欠勤が続くことを心配した会社の同僚が訪ねてきたことから事件が発覚した。
警察は女性が殺害される前後に、沙織さんのキャッシュカードを使って銀行口座から現金を引き出そうとしている男の姿が防犯カメラに映っていたことから捜査を進め、強盗殺人や住居不法侵入などの容疑で川口市源左衛門新田の自称配管工の清田龍也(39)を逮捕した。また当初は本事件の3か月前に本事件現場と同じアパートの別の部屋で起きた強盗事件での逮捕であった。
男は沙織さんのキャッシュカードから現金を引き出そうとした際、彼女のセーターやマフラーを着用しており、自らの正体を隠そうとしていたというより、むしろ目立たそうとしていた感がある。また沙織さんの部屋にベランダから侵入したが、沙織さんがすぐに帰宅したため、カッターナイフで脅して「殺すぞ」と脅した上、衣類で目隠しし、タオルで口をふさぎ、電気コードで両手を縛り上げて強姦した。
現場となったアパート
さらに清田は沙織さんからキャッシュカードの暗証番号を聞きだしてカネを引き出そうとした。ところが、沙織さんが誤って伝えたか、故意に偽ったためか、暗証番号が違っていたことが分かると、清田は逆上して犯行現場の部屋に戻り、沙織さんを「何発かわからないほどボコボコに殴り、身体中に青痣まみれになる」(捜査関係者の証言)ほどまでに暴行した後、彼女の首を絞めて殺害した。
清田は熊本出身で、同級生と結婚してパチンコ店で働いていた。障害を持つ息子がいたが、その子を毎日だっこするほど子煩悩だったという。川口市強姦殺人事件の数年前にはトラック運転手をしていたが、両親がギャンブルから多額の借金を抱えて無理心中し、その借金を男が引き継いだことから人生が暗転してしまった。仕事場に借金返済を催促する電話がかかるようになり退職した
パチンコ店の常連客から「鳶職の方が稼げる」といわれ鳶に転職したが、清田の供述によれば「(鳶の)職場は遊び好きの人間が多く賭博にのめり込んでしまった」という。さらに借金は膨らみ、これを返すにはギャンブルにしかないとさらに深みに嵌まった。国民健康保険料の滞納額も400万円に上り、闇金の返済もあったことから妻とは偽装離婚し、清田はネカフェ難民のような生活をしていた。
こうした生活苦から清田は本事件の10年前に東京都歌舞伎町のキャバクラ店に押し入り強盗事件を起こし、その後、本事件や、その3か月前に起こした強盗事件で逮捕されるまでの2年間に5件の強姦・強盗事件を起こしている。清田は「カネ目的だった」と供述したが、カネだけが目的だったのかは甚だ疑わしい。沙織さんの犯行時には避妊具を持参していたことも明らかになっている。
逮捕への糸口は清田自らが目立つ格好で現金引き出しに訪れていたほか、衣類で被害者を拘束する手口など、犯人の特定が容易な行動が多かったためという。このため、清田は当初から捜査線上に浮上し、最後は見当たり捜査により逮捕された。清田には死刑が求刑されたが、無期懲役が言い渡された。いったんは控訴したが取り下げ、2008年11月12日に無期懲役が確定した。