1984年7月4日、ニューヨーク州ロングアイランド、ノースポートの森の中でゲイリー・ローワーズ(17)の遺体が発見された。少なくとも32ケ所は刺されており、うちの22ケ所は顔面に集中している。おまけに目玉が抉り出されている。まともな神経をしているものの犯行とは思えない。翌7月5日、ふたりの少年が容疑者として逮捕された。リッキー・カッソ(17)とジミー・トロイアーノ(17)である。

 

彼らは共にジャンキーの家出少年だった。リッキー・カッソは地元の若者たちの間では「アシッド・キング」の異名で知られていた。教師の家に生まれながらも十代前半からグレ始め、今では路上で生活し、ヤクの売人を生業としていた。ヘヴィーメタルをこよなく愛し、悪魔主義を標榜する彼には墓荒らしの前科があった。頭蓋骨を悪魔の儀式に用いるために19世紀頃の墓を暴いたのである。

 

マスコミの報道は過熱した。このたびの殺人も悪魔的な儀式の一環、つまり生け贄だったのではないだろうか? 署に連行される際にカッソが見せた不気味な笑みも憶測に拍車をかけた。ところが、2日後の7月7日、カッソは独房で首を吊って自殺してしまう。結局、自らの口からは何も語ることなく退場してしまったのである。『悪魔の棲む家』でお馴染みの例の家で儀式を行ったこともある。

 

トロイアーノの裁判で明らかになった事の真相は、憶測とは裏腹に、実にちんけなものだった。そもそもの発端は、ローワーズがカッソのヤクを盗んだことを巡る諍いだったのだ。結局、ローワーズは非を認めて、代金を支払うことで和解した。ところが、ローワーズはなかなか支払わない。そこで「この野郎!」とばかりに、森に誘き出して切りつけたというわけだ。悪魔とは関係がない事件だったのである。

 

いや、少しは関係している。現場に居合わせたアルバート・クイノーンズ(16)は、カッソがローワーズを切りつける際、「サタンを愛していると云え!」と叫んだと証言している。しかし、ローワーズは頑なにそれを拒んだ。「いやだ! 僕は母さんを愛している!」 その後、カッソは事あるごとにローワーズを殺したことを仲間に自慢し、「サタンの使者たるカラスに奴を殺せと命じられた」と嘯いていた。

 

不気味な笑みを浮かべるカッソ

 

それで、挙げ句の果てにカッソは不気味な笑みを残して独房で首吊りをして自らの命を絶ってしまったということだ。まさに「悪魔狂信望、ここに極まれり」という感じである。ちなみに、カッソの共犯として逮捕されたジミー・トロイアーノは裁判で証拠不十分のために無罪判決が下されたことから、釈放され自由の身になった。すべてがリッキー・カッソの仕業ということで事件は収束したのである。