「霧積温泉女性殺人事件」は1972年8月16日の午後5時頃、群馬県碓氷郡松井田町の霧積ダム建設現場付近の小屋で女性の遺体が発見された事件。上毛新聞が一面で報じた。被害者は伊勢崎市昭和町在住の当時24歳の女性だった。遺体は激しく損傷しており、乱暴された後に殺害されたとみられた。遺体を発見したのは撚糸業の人物で松井田署に通報。警察は捜査を開始したが、手がかりは得られず、未解決事件となっている。

1972年8月13日、Kさんは群馬県にある秘湯温泉「金湯館」にひとりで旅行にきていた。本来の予定は母親と銀行に勤務する弟の3人で来るはずだったが、母親と弟が出発直前に都合が悪くなった為、ひとり旅になった。Kさんは13日に宿泊した翌日、単独で下山しようとした為、金湯館の女将が女性ひとりでの下山は危険で、徒歩だと3時間以上かかるので、マイクロバスに乗ることを勧めた。だが、Kさんは聞き入れず、下山を開始している。

事件当日は真夏で気温も30度以上あったとみられ、女性の足で3時間以上山中を歩くのは気候条件としてもかなり厳しかったと思われる。女将の提案を無視して金湯館を後にしたKさんは行方不明になってしまう。Kさんが帰宅するはずだった14日を過ぎても自宅に戻ってこなかったことから、心配したKさんの姉が金湯館まで捜しに出向いている。1972年当時は携帯電話は無論、ポケベルもなかったので本人と直接連絡を取る手段が存在しなかった。

 


金湯館
 

当然ことながら、Kさんは金湯館にはおらず、その後の足取りもつかむことができなかったことから、家族は16日になって警察に捜索願を提出している。Kさんの父親は独自に近隣住民の協力を得て10人体制で金湯館に向かっていたところ、16日16時30分頃、途中の林道脇にある作業小屋に、異常な程の大量のハエが群がっているのを発見。父親らは不審に思って小屋の中を覗いてみると、そこにはKさんの遺体が仰向けの状態で倒れていた。

遺体が発見された古びた板張りの作業小屋は8畳と6畳の2間で、Kさんは8畳の部屋の真ん中に倒れていた。Kさんの着衣は濃い紺のノースリーブのブラウスに白いスカートで、スカートがまくれあがり着衣の乱れがあった。また、遺体は正視できないほど激しく損傷していた。首の右と左腕、そして右手の3箇所に鋭利な刃物で刺されたような深い傷があった他、大小合わせて全身24箇所に刺し傷、 さらに心臓がえぐられており、肋骨3本が折れていた。

Kさんの遺体が発見された現場には、血痕は少なかった。その為、おそらく他の場所で殺害された後に、この作業小屋に運ばれて遺棄されたとみられている。その状況を裏付けるかのように、作業小屋前の道路にはタイヤ跡が残されていた。Kさんが所持していたはずのハンドバッグやカメラは作業小屋にはなかった。作業小屋からは犯人につながるような有力な証拠品は残されていなかったことから、この事件は現在までに未解決事件となっている。

現時点で犯人として有力視されているのは死の直前だと思われるKさんを撮影した人物である。この人物は当時、渓流釣りに来ていた男性で、事件に関する情報提供を行っている。この男性は、Kさんから写真を撮ってほしいと頼まれたが、カメラに詳しくなく、一度は撮影を断ったと証言している。Kさんがシャッターを押すだけだと操作を教えてくれ、撮影に応じたと言う。 撮影後、男性はKさんとは、それきり何事もなく別れたと証言している。

しかし、警察がその後、男性を調べたところ、証言時に伝えていた住所である世田谷区にはそうした名前の人物は存在しないことが判明した。さらに、男性は新聞で事件を知ったことから情報提供に協力したと証言していた。だが、事件が報じられたのはローカル新聞である上毛新聞だけであり、世田谷区に住んでいる人間が事件のことを知る機会はほとんどなかったはずで、この釣り人である男性が犯人である可能性が極めて高いと見られている。

なお、「霧積温泉女性殺人事件」が発生した当時の1972年頃は現場周辺で、碓氷川の洪水調節と碓氷川流域の用水の安定化などを目的とし、1975年に完成を目指していた霧積ダム建設工事が行われており、期間作業員が約200名が入山していたことが分かっている。このなかの誰かがたまたまKさんがひとりで下山しているところを目撃し、犯行を思い立って彼女の後をつけて襲った可能性も排除できないと指摘する関係者も少なくない。

Kさんは金湯館に向かう途中、麓の連絡所に立ち寄っている。Kさんは金湯館を訪れるのは3度目だったが、「初めて来た」と伝えており、予約していた名前も告げていない。また、当時ハイヒールを履いており、およそ登山をするスタイルではなかったため、連絡所の人に指摘されて白のスニーカーを購入している。さらに、旅館には母と弟が来れなくなったことを事前に伝えていなかったようで、ふたり分の宿泊の準備が無駄になっていたことも分かっている。

 

 

ネット上では、こうしたKさん言動から彼女が発達障害の一種であるアスペルガー症候群である可能性を指摘する声もあるが、それは憶測でしかない。また、Kさんが死の直前に撮影されたこの写真には、彼女の足元に霧がかかっていることから「死」を暗示している心霊写真ではないかと話題になったこともあり、愚かなテレビ局が「心霊現象ではないか」として放送したことがある。「霧積温泉女性殺人事件」の被害者となったKさんの本名は公表されていない。

 

 

以下、この事件を心霊現象として扱うテレビ番組で観るに価しないと思うが、興味のある方は暇潰し程度にご覧下さい。