2004~2005年にかけて発生した「福岡女性連続強盗殺人事件」は妻子持ちの犯人が「異常性欲者」として注目を集めた。この事件の犯人はトラック運転手をしていた鈴木泰徳(35)という。 鈴木は僅か1か月間で18歳~62歳の女性を殺害し、ふたりの女性は金品を奪われ19歳の女性は強姦されている。鈴木には800万円の借金があったことから被害者は3人共強盗目的の犯行ではあたったが、若い女性ふたりは強姦も目的だった。

最初の事件は2004年12月12日年の瀬も迫った福岡県飯塚市内にある公園で発生した。 鈴木は当時多額の借金と自身の性欲解消があり、この辺りの若い女性を強盗強姦目的で物色していた。 そして、同日午後11時40分頃たまたま近くにいた専門学校生の久保田奈々さん(18)を襲い強姦した。 さらに、久保さんの首を締めて殺害した後、財布を奪おうとした。 ところがその時、たまたま通行人が来たことから何も盗らずに逃走した。

次に被害に遭ったのは北九州市でパート従業員の大中敏子さん(62)であった。大中さんは路上に突然、飛び出してきた鈴木に包丁で刺され殺害された後、現金6万円入りのバックを奪われている。そして、翌年の1月18日には福岡市内の公園にいた会社員の福島啓子さん(23)の背中などを包丁で刺し殺害した。 鈴木は当初、福島さんを強姦する目的で襲ったらしいが、通行人がいた為、彼女を殺害した後、財布などを奪って逃げている。

鈴木は3月8日に警察に身柄を拘束されるまで被害者である福島さんの携帯で、出会い系サイトを利用するなど、殺害した女性らに対する贖罪意識は全く感じられない行動をとっていた。結局、鈴木は福島さんから奪った携帯電話を使い続けていたことから、その位置情報から足がつき逮捕された。警察の取り調べに対し鈴木は当初、「携帯電話は拾った」「事件には関わっていない」などと弁明していたが、同月10日に全ての犯行を自供した。

 

久保田さんは小学生から始めた剣道で、中学1年時には初段を獲得していた.久保田さんは、14歳で膠原病を患った。入退院を繰り返しながら高校を卒業し、夢を抱いて飯塚市にやって来た。そこで凶行に巻き込まれた。ふたり目の犠牲者の大中さんは若い女性と間違われたことが災いした。彼女が50歳以上であると分かると、いきなり鈴木は大中さんの背中を包丁で刺した。「命だけは助けて」と懇願する彼女の左胸を深く刺して殺害した。

 

3人目の犠牲者である福島さんは航空関係の会社に勤めていた。彼女は、キャビンアテンダント(CA)を目指していた。一度は挫折を味わうが、大学卒業後もCAへの夢を追っていた。彼女は福岡空港で飛行機に乗るためのボーディングブリッジを操作する仕事をして、CAになるため航空専門学校に通う費用を貯金していた。僅か1か月ちょっとの間に、何の落度もない年配女性と、将来への夢を抱いて頑張るふたりの若い女性の命が奪われた。
 

2006年6月に、福岡地方裁判所で初公判が始まると、検察側は冒頭陳述で、鈴木が中学生の頃から女性の下着に執着して窃盗を繰り返したことや、20代の半ばから強姦モノのビデオを特に好むようになり、自宅から同種のビデオやDVDが大量に押収されたと指摘した。2003年からは出会い系サイトで、見知らぬ女性と猥褻な内容の会話やメールのやり取りをしていたなど、その少年時代にまで遡り、性的に異常性があることを暴露した。

 

2006年6月29日に論告求刑公判が開かれ、検察側は被告人鈴木に死刑を求刑した。2006年11月13日に判決公判が開かれ、福岡地方裁判所(鈴木浩美裁判長)は福岡地検の求刑通り被告人鈴木に死刑判決を言い渡した。被告人鈴木は第一審・死刑判決を不服として2006年11月20日付で福岡高等裁判所へ控訴した。2008年2月7日に開かれた控訴審判決公判で福岡高等裁判所は控訴を棄却する判決を下した。

 

被告人鈴木は控訴審判決を不服として2008年2月20日付で最高裁判所へ上告した。2011年2月8日に最高裁で上告審口頭弁論公判が開かれた。同年3月8日に上告審判決公判が開かれ、最高裁は一・二審の死刑判決を支持して、被告人鈴木の上告を棄却する判決を言い渡したため、鈴木の死刑判決が確定した。そして、2019年8月2日に福岡拘置所内で死刑囚なった鈴木泰徳の死刑が執行された。享年50歳であった。

 

鈴木は公判中、ノンフィクションライター・小野一光氏による取材に対して、「蚊も人も俺にとっては変わりない」「私の裁判はね、司法の暴走ですよ。魔女裁判です」と語っている。また、一審の判決公判を2か月後に控えて鈴木は陳述書を作成している。「私自身が法廷で噓をつくのではなく、警察や検察が考えた噓の犯行内容の供述調書を都合のいいように押し付けて作成したのであって、本当に噓つきなのは、捜査側である警察と検察側なのです」