熊たちが泳いで渡ろうとしていた湖はヴィゴゼロ湖という場所で、ロシア北部の巨大な淡水湖、冬の間は極寒になる事で有名な場所。例えほんの少しの間でも、人間がこの氷の冷たい水の中で生き残ることは不可能だ。この湖は人にとってだけでなく、動物にとっても寒すぎることがすぐに明らかになる。子熊たちは母熊を信じてついていき、極寒の湖に飛び込んだ。母親と離れ離れになったら生きて行く事はできないので選択肢は無かった。

 

残念ながら母親は湖を甘く見ていたのか、子熊たちは危険にさらしてしまった。渡ろうとした湖があまりに冷たく大きすぎた。母熊と子熊は水に飛び込み湖の向こう側を目指した。暫くすると子熊は母熊に追いつくことができなくなった。なんとか力を振り絞って泳ぐものの、母熊との距離は離れるばかりだった。母が子を見失ったと気づいた時、母親は戻り、子熊は母熊の背中に乗って溺れないようにしたが、この湖を渡るにはまだ力が弱すぎた。

 

母熊は子熊を背中に乗せ続けたまま自力で向こう岸に着く事もできなかった。母熊にとっての選択肢はたったひとつ、子供を置いて泳ぎ続けることだった。人間からすると、ショッキングな決断だが、自然界では仕方がなかった。結局、野生の世界では、生き残るのがすべてに優先するのだ。湖の流れはとても速く子熊を押し流し、母熊は自分だけで泳いでいくのが精一杯。力を振り絞った後、湖の反対側に達し、なんとか陸に上ることができた。

 

子熊は母親と離れたあと、子熊たちは泣き叫び最後の力を振り絞っていた。しかし、母親との距離は広がるばかり、強い流れと極寒の水に耐える事ができなかった。顔を水上に出すだけで精一杯、2匹はともに抱き合いながら一緒に流されました。命をかけて戦うものの時間が経つにつれて動きは鈍くなっていった。そこに偶然にも漁師が水の中にいる子熊を発見し、船に引き上げようと考えた。子熊は反応し、ボートに向かって泳いでいきた。

 

子熊は「もう水の中では助からない、これが生き残る最後のチャンスだ」と思ったのかもしれない。漁師はすぐに子熊が助けを必要としていることが分かったが、助けた熊が襲ってくるかもしれない。熊は非常にパワフルな動物であり、攻撃的になったら人間では手が付けられない。ボートはそれほど大きいものではなく、スペースがない。しかし、そんな事を考えていたら熊はもう手遅れの状態になってしまうので、漁師は構わず子熊との距離を詰めた。

 

 

子熊の1匹がやっとボートの端までたどり着き上ろうとしたが、この時もう子熊には、自力でボートに登る力がまったく残っていなかった。その途中で力尽き水中に落ちてしまった。漁師は漁業用のネットを使って熊を引き上げようとしたが、熊は重すぎた。漁師は考え得るすべての事を尽くし、熊も最後に残った力を振り絞った。しかし、それでも十分ではなかった。漁師は諦めたくなかった。「ここで置き去りにするなんてことはできない」と思ったのだ。

 

何としても漁師は熊を助けたかった。結果的にネットを使って1匹の熊をボートの上に乗せる事に成功した。2匹目の熊も何とかそれに続こうと力を振り絞りましたが、もう力が残っていない。ボートの端では、1匹目の子熊が疲弊して横たわっている間、漁師たちは2匹目を救うために奮闘していた。しかし、2匹目の熊はネットの中に絡まり、抜け出せなくなってしまった。時間が経つにつれて2匹目の熊がボートに自力で登るのは不可能に思えた。

 

ここで漁師のひとりが手網を使ったアイデアを思いつく。このアイデアでは漁師と熊の信頼が不可欠。漁師は熊と目を合わせ、それは何か心で繋がっているように感じた。漁師は子熊が「助けてください、まだ死にたくありません」と言っているように思えた。何が起こるか分からない為、漁師も熊を素手で触る事はできる限り避けていたが、もうそうは言っていられなかった。熊の周りに網をかけ、それをボートに取り付けるというアイデアを実行することにした。

 

この方法を使って漁師は何とか子熊を誘導し、子をつけたままのボートで湖の岸に向かった。これで2匹の子熊は安全なはずだ。疲れ果てた2匹は眠りに落ちていた。漁師は陸に残すだけでなく母熊も探す事にした。母親はまだ近くにいると踏んだ。まずボートから熊を下す適切な場所を見つけた。しかし、母熊に遭遇したら成獣の熊なので危険。漁師たちは母親を探した。母熊は漁師を敵とはみなさず、子熊を救ってくれたと分かっていたようだ。

 

 

母親は隠れながらボートが止まるのを待っていた。子熊も目を覚ました。2匹の子熊はボートから自力で降り、陸に足を踏み入れた。漁師たちがその場から立ち去ると、母熊は子熊に近づき安堵しているように見えた。漁師も全員幸せな気持ちになった。もちろん人間が自然に介入するという事は常に良い事ではない。もしかしたら自然のままにしておく方がよかったのかもしれない。しかし、漁師が見捨てるべきだったとは個人的には思わないが…。

 

【参照:ティップアンドトリック】