1979年(昭和54年)以降、1979年に足利市在住した福島万弥ちゃん(5)が殺害されたのを皮切りに3年から6年というスパンをおいて、幼女誘拐・殺害事件が栃木と群馬県境を往復するように発生していた。17年間に、5件の半径10キロ圏内で起きている。冤罪事件となった足利事件も含まれている。これら5事件は場所や日時の類似や、犯行の手口も酷似しており、同一犯の犯行と推定されている。これらの事件は「北関東連続幼女誘拐殺人事件」と呼ばれている。

 

これら事件の特徴として、以下の点が共通点としてあげられている。被害に遭ったのが4歳から8歳までの児童である。3事件において被害者がパチンコ店で行方不明になっている。3事件において河川敷のアシの中に被害者の死体が遺棄されている。4事件において金曜、土曜、日曜および祝日に事件が発生している。どの現場でも、泣く子供の姿などは目撃されていない。また、これら5事件全てが未解決事件となっており、犯人特定・逮捕には至っていなかったが、時効が成立した。

 

1990年(平成2年)、松田真実ちゃん(4)が命を奪われた「足利事件」の被疑者とされていた菅家利和氏が1991年に逮捕・収監された。それにもかかわらず、その5年後に類似事件である「太田市パチンコ店女児連れ去り事件」が発生したことから、「足利事件の解決」が不自然であるとし、服役中の菅家氏は冤罪の可能性があるとしてキャンペーンが展開された。DNA型再鑑定の必要性を訴え続け、再鑑定が実施されたところ真犯人と男性のDNA型は一致せず釈放となった。

 

ジャーナリストの清水潔氏は一連の事件の目撃証言を再検証するなど粘り強い調査の結果、複数の事件現場に現れていた不審な男の存在を炙り出す。アニメキャラの「ルパン三世」に容姿がそっくりなことから“ルパン”と名付けられたこの男の身元をついに特定した。ルパンは独身で週末になると県境を行き来する。足利や太田のパチンコ店に現れては一日中タバコをくわえて玉を弾く。知り合いらしい幼い少女と手をつなぎ、親しげに話し、抱きしめて頬ずりをする姿も何度も確認された。
 

清水氏が発見した事実や、情報を検証する捜査に、警察はまだ着手しようとしない。また、菅家氏が足利事件の犯人ではなく冤罪であったことが明らかになり、釈放された後も、真犯人を追及する動きが見られない。松田真実ちゃん事件と横山ゆかりちゃん事件のふたつの事件が「同一犯」であると認めたら、「足利事件」で正しい捜査が行われていれば、「ゆかりちゃん事件」は起きなかったということになってしまう。広域捜査を所管すべき警察庁のプライドはガラガラと崩壊してしまう。

 

警察庁は栃木県警に捜査一課長を本部長として送りこみ、「何としても逮捕をする」と意気込んで、まだ完成していなかったDNA鑑定を科警研に実施させた。それが誤認逮捕を引き起こした上、真犯人による「横山ゆかりちゃん事件」が起こったとは認めたくない。それでも国会で追及され、5件の同一犯説を認めた警察庁は、今度は「時効」を持ち出し、捜査を行おうとしない。これには更に深刻な理由がある。それは冤罪が疑われながら、犯人が既に死刑が行われた「飯塚事件」だ。

 

ルパンと呼ばれる男を逮捕し、DNA鑑定してしまえば、科警研の誤判定が確定する。それは、DNA型鑑定が同じ時期に同じ方法で、同じ鑑定技官によって実施されたという「飯塚事件」にも重大な影響を与えることになるだろう。しかも、この事件の犯人とされる「久間三千年」は死刑が執行されている。そんな「爆弾」を抱えこんでまで『ルパン』を逮捕しようと決断する人間が、霞ヶ関にいなかったのだ。かくして、「北関東連続幼女誘拐殺人事件」は「爆弾」と共に葬られようとしている。

 

【北関東連続幼女誘拐殺人事件の被害者】

1979年 栃木県足利市 福島万弥ちゃん 5歳 殺害
1984年 栃木県足利市 長谷部有美ちゃん 5歳 殺害
1987年 群馬県尾島町 大沢朋子ちゃん 8歳 殺害
1990年 栃木県足利市 松田真実ちゃん 4歳 殺害
1996年 群馬県太田市 横山ゆかりちゃん 4歳 行方不明