覇権主義を隠さなくなった中国の2020年の国防費予算は前年実績比6・6%増加し、経済の停滞が鮮明になるなかでも高水準を維持した。予算額の1兆2680億元(約19兆1000億円)は米国に次ぐ規模であり、日本の防衛関係費の実に約4倍にあたる。中国の「強軍」路線は今後も継続され、軍事力を背景にして、南シナ海、尖閣諸島など中国は自らの不条理な主張をも押し通そうとしている。

南シナ海に対する中国の領有権主張や人工島の建設などが国際法に反するとして、オランダのハーグにある国際仲裁裁判所は「中国の主張に法的根拠がない」との判断を示しているが、中国は仲裁裁判所の存在を忘れたように振る舞っている。日本の尖閣諸島周辺に中国海警局の武装艦が連続して100日以上も侵入し、挑発を続けている。だが、日本のメディアの多くが中国を批判することに消極的だ。

ところが、日本の防衛費が前年比で、わずか2%ほど伸びると、「安倍政権で初めて5兆円を突破し、増大し続ける防衛費」「官邸主導で米国から高額兵器を次々と輸入、攻撃型ミサイルの導入計画も進める」「日本が“いつか来た道”を歩み始める」など罵詈雑言を浴びせかける。米軍が沖縄で不祥事を起こせば「米軍基地があるから犯罪が起こる」「米軍基地は出て行け」など感情的な報道を繰り返す。

中国による民主主義陣営へ侵略は香港に止まらず、次は台湾をターゲットにするだろう。そして、その後は日本の尖閣諸島を奪取し、沖縄をも視野に入れているはずだ。したがって、日本のメディアは民主主義を標榜しているならば一斉に中国を批判するキャンペーンを張って、日本国民を覚醒させるべきである。中国に支配された民族がどういう扱いを受けるのかはチベットやウイグルを見れば明らかである。

確かに、沖縄の駐留米軍が痛ましい事件を起こしてきたことは事実である。米軍が日本の安全保障に大きく寄与しているからといって免罪符が与えられるはずもない。しかし、中国の人民解放軍が入ってきたら米軍と比較にならない非人道的なことが行われるに違いない。そして、そうしたことを非難する自由も与えられない。ウイグルの例から考えるなら沖縄の女性は不妊症処置を強制される可能性すらある。

だから、日本は防衛力を整備し、同盟国である米国と絆を深め、連係しなければならない。ところが、日本のメディアはGDP比0.96%でしかない日本の防衛費に警鐘を鳴らし、日本は外交戦略や対話戦略を続け、日中の信頼醸成をすべきと主張。そして、同盟国である米国のトランプ大統領を無教養と罵る。だが、自国に取り込んだ民族を抹殺するため不妊症処置を強制する習近平ほど無教養ではあるまい。

さぞかし、習近平をはじめとする中国指導部は日本メディアの報道を「滑稽」と嗤いながらも感謝していることだろう。彼らのほくそ笑む顔が見えるようだ。しかし、なぜ日本のメディアは国益を損ねてまで、中国に媚びるのか。そのひとつの理由が「日中記者交換協定」の存在だろう。新聞を読む習慣のある日本国民でも、どれほどの人たちがこの屈辱的で歪な「日中記者交換協定」の存在を知っているだろうか。

日中国交正常化以前の日中間に国交のない1964年(昭和39)4月、日本と中国は、高碕達之助事務所と廖承志事務所という当時の日中貿易の窓口が仲介して、「日中記者交換協定」が締結され、日本の9つの報道機関が、北京に記者を常駐できることになった。この新聞記者交換協定は中国側に不利な記事は書かないと約束する屈辱的なものであり、メディアが報道の自由を自ら踏みにじる自殺行為であった。

1968(昭和43)3月、それまでの日中記者交換協定が破棄され、田川誠一、古井喜実氏ら親中派の代議士が仲介する形で、新たな日中記者交換協定が結ばれた。その際、中国側は「中国を敵視しない」「ふたつの中国をつくる陰謀に加わらない」「日中国交正常化を妨げない」という「政治三原則」を日本のメディアに求め、守らなければ中国に支局を置くことができなくなり、記者は追放されることになった。

つまり、日中記者交換協定は「日本のメディアが中国に記者を駐在させたければ、政治三原則を守れ」ということである。相手国政府、ましてや独裁国である中国の方針に従うことを約束しているのだから、メディアの使命である自由な報道や論評を放棄したものといえる。日本のメディアは、ここ40年余り、記者を駐在さてもらうため、中国批判をせず、中国政府の意向を代弁し、中国のプロパガンダ機関と化してしまった。

日中間の記者交換は73年末、失効しため両国政府間で、これに代る取決めの締結を合意した。その後、記者交換に関する交換公文は74年1月5日、在中国日本大使館橋本恕参事官と王珍中国外交部新聞局副局長との間で交された。しかし、その内容は公表されておらず、日本政府は交換公文の内容を公表すべきだ。また、外務省は中国に関する正確な記事を担保するため、中国との交渉を行わなくてはならない。

 

【注】現在、産経新聞と時事通信は日中記者交換協定に縛られていない