現在の北朝鮮問題は昨年6月12日のシンガポールでの第1回米朝首脳会談では、具体的な成果はなかったが、それでも米国の現職大統領と北朝鮮の国家元首が初めて会談するという象徴的な意味合いがあった。ところが、それ以降は北朝鮮外交の術にはまり、非核化の糸口は見えて来ず、虚しく時間だけ過ぎて行く。10月5日にストックホルムで開催された米朝の実務者協議も物別れに終わっている。

トランプ大統領は北朝鮮が短距離ミサイルやSLBMなどを発射しても「金正恩委員長とは良い関係にある」と不問に付している。2017年当時、米朝は一触即発の状況だったが、米政権内で「朝鮮半島有事と台湾情勢は連動している」との見方が台頭した。つまり米国が北朝鮮を攻撃すれば、米軍は北朝鮮の反撃と韓国防衛に専念せざるを得ず、その隙を突いて中国が台湾に侵攻する可能性がある。

というのも、オバマ政権下で軍縮が進められ、米軍は兵力を著しく落としており、北朝鮮と台湾の二面同時対処は困難で、台湾防衛が覚束ないと判断された。これが、トランプ政権が北朝鮮に対して宥和姿勢に転じた理由だともいわれている。しかし、米国の北朝鮮への宥和姿勢も終わりを迎えそうな気配が漂っている。17年以前、米国は韓国を同盟国として見ていたが、見捨てられる模様だ。

10月5日の実務者協議が決裂、北朝鮮は米国を舐め切って好き勝手やったうえで、批判を展開している。このためトランプ政権は棚上げにしていた北朝鮮攻撃という選択肢を再度テーブルに乗せたといわれる。一部メディアは「トランプ政権は北朝鮮がICBMを発射した瞬間、北朝鮮空爆を開始する方針を固めた」と報じている。その際、米軍は自衛隊との協力のみを想定しているという。

 

もし、米軍による北朝鮮空爆が始まれば、北朝鮮も必死の反撃に出るので、韓国も含めた朝鮮半島全体は戦火に塗れることになる。これは取りも直さず、米国が韓国を同盟国として見なさなくなったということだろう。実際、戦略的な兵器やシステムが在韓米軍から在日米軍基地に移されていることからトランプ政権内では在韓米軍の撤退がコンセンサスになっていることが推測できる。

 

米国が対北朝鮮を開戦する場合、戦闘の不必要な拡大と長期化を防ぐため、事前に中国とロシアと協議し、両国から「参戦しない」との約束を取り付ける必要がある。米国と中露は緊張関係にあるが、「(北朝鮮問題で)今月に入って米中露の安全保障関係者が会ったらしい」との一部報道から条件付きながら米国の対北朝鮮開戦に関して、既に何らかの合意がなされているのではないか。

 

10月5日の米朝実務者協議後、米国務省が「2週間後に朝米実務交渉の再開を希望する」との声明を出しており、この呼びかけに北朝鮮が誠実に応えようとしない場合、米国大統領選まであと1年余りとなり、トランプ再選不利との予想が出るなか「対北朝鮮勝利」という勲章を得るため、韓国を守る気がなくなったトランプが賭けに出る可能性は十分にあると思われるのだが…。