周造はしばらくして戻ってきた。また、三和土の段に腰を下ろして三井に用意してきた物を渡す。書き込んだ身上書とマスターの名刺、そして一万円札であった。
「おい、釣り銭なんかないど」三井は受け取りながら言う。
「釣り銭なんかいらんですよ。動いてくれて嬉しい」周造が笑って答えた。
「そうケー、じゃ、入会金の3000円と会費2ヶ月もろとくか、3000円。それで6000円。後は足代にもろとくわ。言い遅れたがオレは副会長の三井だ。そして、この色男が会長の大道。そいで、このゴツいのが広報の吉成。それからこの若いのが秘書の日暮じゃ。みんな役員じゃけ、信用してくれよのうー」
三井の物言いが段々と広島弁に変わってきている。彼が上機嫌の証拠であった。
「じゃあの、吉報を待っててくれや」三井は貰ったものを上着にしまって立ち上がった。スッカリ菅原文太気取りである。周造も立って深々と頭を下げている。
「トヨーッ、帰るぞー」私は慌てて大声で叫んだ。
「はーい」負けないような大声で返事がきて、障子の向こうから豊子がすっ飛び出て来た。愛子となにかつまみ食いしていたのであろう。口をモグモグ動かしている。
「珍しいくらいチョロい話ですね」みんなが乗りこんで車が動き出してから涼が言う。
「そうだよなー。飯塚つうマスターを叩けば直ぐにゲロるだろ」啓太が笑って言う。
「叩くんじゃねえ。叩いたらダメだ」三井が運転しながら言った。
「暴力は絶対にダメだからな。マスターの後ろにどんなのが着いているかわからないじゃないか。こじれたらヒマ食ってしまう。簡単に水が流れるように済ますんだ」
「水が流れるようにって、美空ひばりじゃあるまいしそんなにうまくいくかね?」
私は豊子のこともあり少し反発してやれと思って言った。部下と言われたことも根に持っていた。
「いくに決まってるだろう。この業界はどんなとこよりも金がものをいう世界なんだ。だから、明日はオメーも行けよ」
「エーッ」私はたまげた。洋子の捜索は啓太と涼で当たることになってるじゃないか。聞いてないよ。
「話が始めっから煮詰まってるんだよ。決めに行くところまでな。となりゃ、オメーが行くしかねえ。権限も金もオメーが持ってるんだからよ」三井は強い調子で言った。
「しかし、金ったってまとまったものは手元にないぜ」私は精一杯反論した。
「パカヤロ。スナックのマスターあたりにまとまった金がいるかい。3,4万もありゃ充分だよ」三井が言う。
「だったら、こいつらだって持ってるじゃないか」
私は言った。行く前に10万づつ渡している。
「ありゃー、生活費だ。会のために使う金じゃねえぜ」
三井が言うと、そうだ、そうだの啓太の声。
「会の金たって、用意してきた30はお前らに吐いちまって残ってねえんだ」私は弁解した。本当はナマで40くらいはまだ持っているんだけどな。
「パカパカヤロ。末野が500も振り込んでるじゃねえか。オレが聞いてねとでも思っているのか?」
「アレは違うだろ」私は泡食って言った。「あれは前から使ってた明星の口座でオレは通帳がどこにあるかも知らねえんだ」
「そうなんだってな」と三井は笑う。「NPO法人とはね、オレも一服したぜ。相変わらずとんでもねえ発想をする奴だと思った。褒めとくよ」
一般道であるが車の流れはいい。道端に色んな店舗が建っている。三井は調子よく続けた。
「明日、則子がシマに帰るそうだから誰かが送っていかなくちゃな」
その言葉に私はギョッとなった。明星の通帳と判子は則子が保管している。いずれ使うかもしれないと思って、ただ残しておいただけの口座だった。末野には月王との窓口として書式は教えておいたが、いきなり500万も振り込んでくるとは想像もしてなかった。休眠中のものがお宝に激変したのである。
「オメー、まさか、則子こまして金抜こうてんじゃないだろうな」
私は三井に大声で怒鳴った。
続く