「このヤロウ、よくもあおり運転してくれたな。窓を開けろ!」
啓太は前の男女に鬼の形相で怒鳴る。幼児が途端に火のついたように泣き出した。
私はその時、成り行きでセルシオの助手席側に立っていた。乗っている女は顔が歪みきっている。ソレを見た私は弾けた。
「窓を開けろ」と怒鳴ってドアをドンドン叩く。ウインドーがスーと開いた。後部ドアを開けられてしまっては、諦めるしかないと思ったのだろう。子供が人質のようなものだ。運転席側でも同じことが起きていた。涼が窓を開けさせ運転手の首を捻じり上げている。
「このヤロウ、あおり運転でオレたちを殺そうとしたな。首の皮一枚までピッタリ着けやがって。テメエは狂ってやがんのか」
涼は顔を真っ赤にして脅かしている。
「あおり運転なんかしてません。あなた方がスピードを落としたから仕方なしに着いてっただけです」
男は襟元を捕まれているので思うように声が出ないようだ。両手で涼の右腕を剥がそうとしているがビクとも動かない。涼の腕力が並はずれているのがわかる。
「ウルセーッ、この人殺し。外に出てこい」涼はドアを開け男を外へ引きずり出した。
私は面白かったのでその様子をスマホで撮影することにした。ある意味常套手段でもあるし、なにより女が好みのタイプだったからだ。ふっくらした丸顔で普段は癒やし系なんだろうが今はとんでもない。泣き叫んでいる様はまるで獣のようである。私は笑ってしまった。
男はワゴン車の陰へ連れて行かれた。啓太もドアを開けっ放しでそちらに回っている。考えてはいないだろうが、幼児はチャイルドシートをしているので這い出す危険はない。私は二人が男をどうするか注目していた。相当に痛めつけるだろうと予測していたがその通りになった。確固たる恐怖心を植え付けないと警察にチクられる恐れがある。啓太が男を後ろから羽交い締めにした。
「コラーッ、殺人鬼。どう、おとしまえ着けてくれる気だ。オオーッ」
涼は噛みつかんばかりに男を怒鳴りつける。男はありがちなメタルフレームをかけたのっぺりした優男である。
「やめてください。暴力しないで下さい」もうすでに鳴き声である。
「やめてくださいだとーッ、山本リンダじゃあるまいし、そんなこと出来ないね」
涼の攻撃は電光のように早かった。構えも見せずに左右のボディーブローを2発、男にたたき込んだ。
男は唸る。さぞ苦しいだろう。みぞおちなら気を失うこともあるが脇腹ではそうもいかない。身をよじって悶えている。倒れ込んでバテ狂いたいだろうが、啓太が剛力で押えているのでそうも行かない。つるし上げられているのと一緒の状態である。
「どうだー。もうワンセットいくかー?」涼は男の着衣を探り始めた。そして上衣のポケットから財布を引っ張り出した。
「オオッ、あるある。専務、コイツも撮影して下さい」
涼が手を掲げてそう言うから行ってみるとそれは男の免許証だった。スマホを近づけて写真を撮った。財布の中の金は7,8万と見た。結構持ってるんで驚いた。札だけ抜いて後は捨てる。
「どうだー。金はこれで全部か?女がまだ持ってんだろ。どうなんだーッ」
涼は男の頬を張ったが、男はダランと首を下げて苦しむばかりで声は発しない。
「ダメだな、コリャ。もう用はない。女に聞くベ」
涼がそう言うと啓太は男を離した。男はドサッと倒れ、芋虫のように身もだえている。腎臓が損傷しているかもしれない。となると一生、人工透析になる恐れもある。
涼は女の所に行った。するとなぜか啓太は後部席に戻った。
続く