糖尿病の勉強会に行ってきました。
そこで聞いた言葉、
「クリニカル イナーシャ」(Clinical Inertia)
イナーシャとは、慣性の事だそうです。
物体は外力を受けない限り、変わらない。
静止したものは静止したまま、動いているものは動き続けることを言うのだそうです。
「クリニカル イナーシャ」は、
血糖コントロールが目標値に達していないのに、
治療が適切に強化されないことを指し、
医師やスタッフ、患者さんの様々な要因によって起こってきます。
以前はHbA1cの目標値は7.0%未満と一律であったのに対し、
現在、人口の高齢化などがすすんで、
患者さんの年齢や活動度などに合わせたHbA1c目標値が設定されるようになり、患者さんによってはより高いHbA1cが推奨されるようになりました。
そのため、高齢者においては、以前より、血糖コントロールの目標は緩やかになっています。
でも、HbA1cが目標値に達していないときは、速やかに治療を強化する必要があります。
たとえば、飲み薬だけで血糖コントロールがつかないときは、
注射剤を使っていかなければならないこともあります。
ところが、注射剤になるというと、
患者さんの経済的負担や、心理的負担も大きい場合もあり、
また、注射剤の指導ができるスタッフや専門医がいる病院に転院しなくてはならない場合もあって、
そこで、血糖は高いけれども、このまま飲み薬で行きましょう、ということになり
治療が惰性的(イナーシャ)になってしまうことがあるということです。
糖尿病は、食事や運動が結果に大きく影響します。
HbA1cが高い時、私も、
「薬をあまり増やしたくないから、もう少し、この食べ物を控えてみましょうか。そして、来月、血糖が悪ければ、新しいお薬を追加しましょう。」
と話したりします。
逆に私が、薬を追加しましょう、と言ったときに、患者さんの方から、
「先生、あと1か月だけ待ってください。今月はたまたま外食が多くて食べすぎていたので。」
と言われて、増薬を断られることもあります。
特に、注射剤の導入を進めた時にはそういう反応が多いです。
そして、じゃあ、あと1か月、食事と運動を頑張ってみてください、という話になり、
それが、毎月、漫然と続いてしまったりします。
その間に、合併症はじわじわと進んでしまうんです。
「クリニカル イナーシャ」
私にも耳の痛い「あるある」です。
早めに治療強化、良くなったら早めに減薬、を
心がけたいです。
そのためには、患者さんと日頃から治療についてよく話し合い、
信頼関係を築いていないといけないのかもしれませんね。