命懸け


怖いもの知らず





モータースポーツをしていると

聞き馴染みのある言葉です。




少なくとも僕には当てはまらない言葉だと、この言葉を耳にしたり目にするたびに思います。だから遅いんだと言われると返す言葉はありませんが僕はそれでいいです。なぜなら人はそこまで強くないから。怖がりで死ぬことに怯えていないと恐れた通りの結末が待っていそうで怖いから。



昨シーズンなにか言葉にするにはあまりにも苦しい事がいくつかありました。その度にこのスポーツのリスクを嫌でも突きつけられてからっぽになり、何のために一番になろうとしているのかさえ分からなくなりそうになります。





最悪の結末。このスポーツに関わる人間が必ずどこかでそれを意識しているものの、誰もがそれは自分よりいちばん遠い位置にあるものと言い聞かせてサーキットへ赴き、正確な車両の整備をしてコースへ走り出し目の前の0.1秒を削っています。




4輪のレースではドライバーの首を護るハンス、フォーミュラでは外に出ているドライバーの頭部を保護するハロなどの安全面のデバイスが進化しています。



4輪と比べて2輪はどうでしょう?

ヘルメットや胸部プロテクターの性能は向上しエアバッグなども登場し確実に安全性は上がっています。

またサーキットの設備面でもランオフエリアの拡大や全日本ロードレースの選手会やART(チームの組織)を通して提案した場所へのスポンジバリアの増設など改善すべき点は少しずつではありますが改善されています。またサーキットのメディカルにいる医師団からは転倒した際に頭をぶつけ脳震盪と診断された場合はそれ以降の走行は一切認められないというルールも定められています。




それでも最悪の結末をゼロにすることはできません。




僕は臆病なのでサーキットにいるときはドクターヘリが飛んでくるのや外部から救急車が入ってくるのをなるべく視界に入れないようにしたり、言霊はあると信じているので自分は不死身だとありえないことを自己暗示として唱えています。



最悪の結末はとても怖くて誰かにその結末が突きつけられる度にこのスポーツをしている意味が何なのか分からなくなります。

まわりの大切な人が泣き崩れて応援したこと支えたことを恨むかもしれない。最後にかけた言葉が「頑張れ」じゃなくて「気を付けて」なら生きていたかもしれないと後悔するかもしれない。




それでもエンジン音を肌で感じアクセルを捻る事で自分を表現するこのスポーツに魅了され、今の自分を作り上げたこの世界にもう少しだけいたいと思います。



2024年も全日本ロードレースをはじめ各地方選手権を含めると数百人のライダーが0.1秒を削りながらレースを走ります。あなたがそれを心の底から応援するのか心配しながら背中を押すのか、それともレースを辞めてほしいと思うかは自由です。

それでもあなたの隣にいるライダーが決断したならばどうかそのライダーを全身全霊で信じてください。あなたが信じることでそのライダーは必ず笑顔で帰ってきます。


かならずです。