映画「帰ってきたヒトラー」を見て思ったこと | 翡翠のブログ

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帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
Er ist wieder da/Look Who's Back

上映日:2016年 6月 17日

製作国: ドイツ / 上映時間:116分

監督

デヴィット・ヴェント

キャスト

オリヴァー・マスッチ ファビアン・ブッシュ カッチャ・リーマン フランツィスカ・ヴルフ ラルス・ルドルフ

あらすじ

ヒトラーの姿をした男が突如街に現れたら?
「不謹慎なコスプレ男?」顔が似ていれば、「モノマネ芸人?」。
リストラされたテレビマンに発掘され、復帰の足がかりにテレビ出演させられた男は、長い沈黙の後、とんでもない演説を繰り出し、視聴者のドギモを抜く。
自信に満ちた演説は、かつてのヒトラーを模した完成度の高い芸と認識され、
過激な毒演は、ユーモラスで真理をついていると話題になり、大衆の心を掴み始める。しかし、皆気づいていなかった。
彼がタイムスリップしてきた〈ホンモノ〉で、70年前と全く変わっていないことを。
そして、天才扇動者(ルビ:アジテーター)である彼にとって、現代のネット社会は
願ってもない環境であることを―。


(感想)

タイムスリップものとしての前半は面白くておかしくて
風刺も効いていて楽しい。
後半はもう、シリアスと言ってもいい。

現代に蘇ったヒトラーは、人々に「真理」をつきつけ、
隠された本音をえぐる。


彼は言う。
「私は人々を煽動などしていない。
明確な計画を提示した指導者を人々は選んだのだ」

「どうする?選挙をやめるかね」

何とも皮肉なことだ。
そうなのだ、彼は「民主主義」の選挙によって選ばれたのだ。
最初は国民が選んだのだ。

現代の政治家への批判も面白かった。
昔は命がけで「全権委任法」に反対した気骨ある政治家も
いたのに、今は命をかけるような者はいない・・・。
日本だけじゃなく、ドイツもそうなのだなあと、どこも
同じようなものなのかもしれないと思う。


ヒトラーは「本物」なので、自分の本当の考えを述べているだけなのに
「モノマネ芸人」の「芸」だと人々が勝手に受け止めて
喝采を送る。
なんだか「チャンス」(ピーター・セラーズ)みたいだ。
あのえいがでも、チャンスは自分なりの
考えを述べるだけなのに、周囲の人たちが勝手に解釈して
絶賛してしまう・・・というものだった。

しかしこちらは何と言っても「ヒトラー」本人。
いつ彼は大衆にそっぽを向かれるのか?
彼が本物だというのはバレルのだろうか?
というサスペンスがあり、最後まで引っ張られた。

あることがもとで彼は人々から総スカンを食らうのだが
その後、別のことがきっかけで人気を盛り返す。
それもまた意外だった。





ラストも実に意外だった。
どこか痛快でもあり、恐ろしくもあり、
日本も人ごとではない、と思ってみたり・・・。





途中、TVのディレクターと一緒に各地を車で回り
人々に今の政治に対する不満をインタビューする。
(この部分は、実際に町の人々に突撃取材をしているらしい。)

ドイツでは移民への不満は言ってはいけないようだ。
しかし実は不満があるという本音を話す人が
チラホラいる。
ドイツの今の問題点が少しずつ浮き彫りになってくる。
ユダヤ人虐殺の大罪のために、口を塞がれてしまっている
現代のドイツ人。
日本も同じようなものだ。
「ヘイトスピーチ解消法」なるものができて、日本人も
なかなか本音が言えなくなってしまった。


各所で行ったインタビューはゲリラ的撮影で、
役者ではない一般人が出ている。
だから許可をもらえなかった人にはモザイクや目隠しが
してあって、この部分は
半分ドキュメンタリーみたいで面白い。

そのインタビューで見えてきたのは


ドイツでは「反移民」の声も少なからず上がっているということ。
時折挟み込まれる実際のニュース映像で、今のドイツの
本音がチラチラと覗える。
反EUもいて、何もイギリスだけがEUに不満だったのではないのだ。
EUの中でひとり勝ちしているようなドイツにおいても
庶民レベルでは、やはり困ったことが起きているのだ。


そのような、普段は言えない密かなドイツの不満、苦しみを
ヒトラーの口を借りてほんの少し吐露したかのような
映画だった。


面白く、そして考えさせられた。


大笑いしてしまったのは
「ヒトラー最後の12日間」のパロディーであろう場面。
あれは面白かった。



それにしてもよくこういう映画が作れたなとちょっと
驚き。
もともとこれは小説で、それをうまく映像化したようだが
よくできているのではないだろうか。

ヒトラーという「怪物」を生み出してしまった歴史に学び、
二度とこういう独裁者を登場させてはならないという
「常識」はあるにせよ、それなのにこういう
「指導者」を心のどこかで求めてしまっていないだろうか。
それは何故なのか。

何故、人々が彼を求めてしまったのか。
その理由、意味を探り理解しなければ
また同じことが繰り返されてしまうかもしれない。