「データ分析が新技生む」 体操革命、具志堅氏の予言
体の動きに加え、呼吸や鉄棒のしなりも目安に
インタビューに答える具志堅幸司氏(東京都世田谷区の日体大で)
体操の競技団体である日本体操協会(東京・渋谷)は富士通と組み、審判を支援する技術の共同開発に取り組んでいる。
レーザー光による3D(3次元)センサーで選手の動きを数値データに置き換え、正確な採点につなげようという試みだ(詳細はこちら
)。そうして蓄積したビッグデータは体操競技をどう変えるのか。
同協会の副会長で、1984年のロサンゼルス五輪の金メダリストでもある具志堅幸司氏(日本体育大学学長)に聞いた。
◇ ◇ ◇
■審判の目に見えない内村選手のひねり
体操の技の進化は著しい(リオデジャネイロ五輪で床の演技をする内村航平選手)
――これまで体操競技は人の目で採点してきました。
なぜ今、テクノロジーが必要なのですか。
「内村航平選手の床の『2回宙返り、3回ひねり』が、審判の目に見えない場合があります。『2回宙返り、2回ひねり』と誤ってしまい、後からビデオで見て修正する。
それくらい、ひねりが早いのです。(テレビで見ている一般の観客は)家庭にいながら、審判が間違えたものを正確に見ることができるというのも、テクノロジーですよね」
――テクノロジーの力を借りなければならないほど、技が高度になっているということですね。将来、体操の審判は機械に置き換わるのでしょうか。
「そうなるかも分かりません。いいか悪いかは別として、可能です」
――体操の審判には、技の難度を判定するDスコアと、それが正確で美しかったかを判定するEスコアがあって、その掛け合わせで点数が決まります。機械が担うとすればどちらでしょうか。
「Dスコアは(機械の方が)はっきりしますね。Eスコアは人間が見ればいい。でも体の角度がいくつだったら0.1減点、いくつだったら0.3減点というように(機械に)インプットさせておけば、Eスコアも機械がやるようになるかもわかりません。個人的には好みませんけどね」
――テクノロジーの導入は審判にとどまらず、体操競技そのものにも影響を与えますか。
「体操競技の発展を振り返ってみると、2つの要素がありました。ひとつは機械器具の改良が進んだことです。たとえば前回(1964年)の東京五輪のときの床は、いわゆる普通のじゅうたんで、3回宙返りはできませんでした。今はバネ(反発力)があるので可能です。鉄棒のバーも我々のころよりしなりますから、3回宙返りも楽にできます」
「もうひとつがルールです。我々のころ、技の難度はABCの3つの区分しかありませんでした。
それが今はCDEFGHIまであります。技はどんどん進化していて、Iという最も難しいとされる技で良い演技をすると、高得点がとれます。
そういうルールにのっとって、選手はより難しい技に挑戦しようと練習しています」
「体操競技は機械器具が引っ張り、ルールが引っ張ってきました。
テクノロジーは3つ目の要素になるのではないでしょうか」
かつては8ミリビデオを逆に再生して新技がひらめくことも多かったという(具志堅幸司氏の現役時代、1983年撮影)=本人提供
――今後、具体的にどのような発展が考えられますか。
「新しい技が生まれてくると思います。
選手は(データによって)自分のやっていることが正確に見えるわけです。
選手自らコーチになって、今の動きはこうすればできるんじゃないかと分析できます。
それをもとに、また演技して(データを)分析する。その分析もテクノロジーの力を借りることができます」
「昔は8ミリビデオをよく使っていました。自分で撮って、現像に出して、壁に映し出す。逆に再生することもできて、そうしているうちに『これ、できそうじゃないか』となって、新しい技に発展していく。
そうして生まれた技が、いくつもあります」
■感覚、コーチ、データは三位一体
――8ミリビデオの逆回しから、ひらめきが生まれるというのは驚きです。
選手は自分の感覚が頼りだったんですね。
「その感覚は今も必要ですが、それにプラスして、コーチからの助言とテクノロジーからの提案の三位一体がこれからは重要です」
「データはだれのものかという議論も出てくるかもしれない」と語る具志堅氏
――テクノロジーを駆使すれば、失敗やけがを防ぐことも可能ではないですか。
「(選手に)今までと違う力みがあると駄目ですね。僕が着目しているのは呼吸です。現役のときは意識していなくて、引退後にビデオを見て分かったのですが、僕は吸っているときにだいたい失敗しています。どこで吸って、どこで吐くか。今の選手もあまり意識していないのではないですか。呼吸が安定するということは演技が楽になります。逆に緊張したり動揺したりすると呼吸が不安定になって、演技も不安定になります。そういう分析もできるかもわかりません」
――センサーで呼吸を読み取って、そのリズムを本番でも守れば、失敗を防げるかもしれませんね。ほかにも、いい演技をするために目安になるデータはありますか。
「鉄棒のバーのしなりですね。思い切って演技すると、かなりしなります。逆に試合で大事にいかなければいけないと思うと、思いきりがないために、しなりが小さくなるかもしれません。たとえば(体が)バーの頂点にいったときに、練習ではバーの高さより50センチ高いけれど、試合では5センチ低かったとか。逆に思い切っていきすぎて60センチまでいっちゃったとか。そうすると高さが違って失敗につながることも考えられます」
――そうしたテクノロジーの発達は、町の体操教室にも恩恵は及びますか。
「選手にコーチが必要なように、テクノロジーも必須条件になってくるのではないでしょうか。スポーツ界にとっては、(テクノロジーに)使われたらいけないんでしょうけどね」
■データはだれのものか
――コーチも、うかうかしていられませんね。将来、機械にとってかわられる可能性はありませんか。
「やはり、人間の見る目は必要です。それは機械ではできません。たとえば、(リオデジャネイロ五輪で団体総合金メダルの)山室光史選手と内村航平選手が同じ学年にいて、同じ技を教えるのに、内村選手に言うことと山室選手に言うことは違いますよね。人に寄り添って、助言していけるというのがコーチだと思います」
――寄り添ってというのは、心理的なことですか。肉体的なことですか。
「それらを含めて。(指導されたときの選手の)反応も違いますよね。機械は数字は出せても、なかなかそこまではできません。もし将来、機械が(選手の)感情まで検知できるようになれば、機械も必要になるかもしれません。そうなるとコーチが要るのか、要らないのかという議論に発展する可能性はあります。『いいコーチを連れてきたよ』『どこのメーカー?』なんてね(笑)」
――選手にとっても、秘密にしておきたいデータもあるでしょう。「データがだれのものか」という問題は出てきませんか。
「出てくるでしょうね。選手の立場からは、隠しておいてほしいものもあるかもしれません。倫理的な問題も絡むので難しいですね。もっとも(選手のデータが)オープンになったからといって、(別の選手に同じことが)できるかは別問題です」
――実際に、そうした議論は出てきているのですか。
「まだないですね。対症療法ですから。(問題が)出てきたときに、どうしようかとなるのではないですか」
(聞き手は高橋圭介、山根昭)
(転載終了)
技が高難度になればなる程、人の目だけでは捉えられなくなってきていますね。
フィギュアスケートも、四回転が当たり前の時代になり、
次は4アクセル、5回転ジャンプ、と
選手自身も上を目指すとなると、
現状のままの目視だけでいいのかどうか。
体操はその点、先を見据えてAIの導入を積極的に進めています。
スポーツ競技として真っ当です。
あくまでもフェアに、そして誠実に向き合い、
競技の発展のために真剣に努力されています。
羨ましいですね。
フィギュアは旧態依然としたこの体制を、
いつまでも後生大事にし、利益を囲い込みたい思惑が透けて見えます。
そこには「選手のため」という一番大切な視点が
抜け落ちています。
そういった意味の改善は、フィギュアにおいて
なされる時が来るのでしょうか・・・。