(転載)観光立国が損なうもの | 翡翠のブログ

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From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

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「観光立国」が損なうもの

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学


おっはようございまーす(^_^)/

近頃、中国からの訪日観光客によるいわゆる「爆買い」効果の終焉がよく言われていますね。

三橋さんも、8月30日の夕刊フジ(『ZAKZAK』)に次の記事をお書きになっていました。
(三橋貴明「中国経済、衰退加速“爆買い”終焉へ 免税大手のラオックス、赤字転落」『ZAKZAK』 2016年8月30日配信)
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20160830/frn1608301140001-n1.htm


三橋さんの記事も触れていますが、大型免税店を展開するラオックスの2016年1〜6月期の連結決算によると、売上高は前年同月比22%減の約350億円、営業利益はなんと同90%減の4億円だったとのことです。


「爆買い」減少の理由は、中国経済の減速や円高もありますが、一番大きいのは、中国の税制の変更です。中国人の旺盛な購買意欲を日本など外国にとられるのを嫌った中国政府が、今年4月に、旅行客が海外で購入した物を中国国内に持ち込む際の税率を大幅に引き上げたのです。

例えば、高級腕時計の海外からの持ち込みの際にかかる税率はそれまで30%だったですが、

60%に引き上げられてしまいました。


爆買い需要の低下で、これを当てにしていた東京・銀座のデパートなどは、閑古鳥が鳴いているそうです。
(「爆買いバブル終了が銀座の百貨店を直撃、日本人を大切にせず後悔」(『ライブドア・ニュース』

2016年7月8日配信))
http://news.livedoor.com/article/detail/11738322/

デパートの売り上げが大幅に減ったことはともかくとして、これまで培ってきた「洗練された」「高級感あふれる」「落ち着いた」街という銀座のイメージが損なわれてしまったことは残念ですね。


短期的な儲けを当てにして、外国人観光客目線の商売をすることは、長期的には、街に対する愛着を失わせてしまう恐れがあります。


今回の「爆買い」大幅減速をきっかけとして、外国人観光客に頼らない経済政策や街づくりの計画を練るべきだと思うのですが、残念ながら、そうはなかなかいかないようです。


政府は、訪日外国人旅行客の取り込みを相変わらず成長戦略の柱に据えています。


2015年に約2000万人だった観光客を、2020年までに倍増の4000万人、2030年までに6000万人にしようと計画しています。


最近、政府は、「爆買い」に期待できなくなったためか、外国人観光客に、日本の自然環境や景勝地を売り込もうとしています。


例えば、下記の記事にあるように、環境省などが中心となって、日本の国立公園をブランド化し、訪日外国人を引き付ける「国立公園満喫プロジェクト」なるものを始めています。

これによって、訪日外国人の国立公園利用者数を2010年までに現在の430万人から1000万人に増やすことを目指すそうです。

「国立公園のインバウンド強化、阿蘇など8公園をモデルに推進」(『nikkei BP net』(2016年8月2日配信)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/tk/15/433782/080200430/

「訪日客誘致でモデル森林=地域活性化へ観光活用──林野庁」(『時事通信』2016年8月23日配信)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016082300459&g=eco


こうした外国人観光客を当てにした成長戦略は、前述の中国の税制変更のように外国の思惑に左右されやすく不安定だということ以外にも、「経世済民」の観点から、

つまり、日本国民一般の幸福に資するかどうかという観点から本当に望ましいのか非常に疑わしいと思います。


一つは、素朴な疑問なのですが、多くの外国人観光客に来日してもらうには、

日本の物価が相対的に安いほうがいいわけです。


ですので、訪日観光客の需要への期待を政策の柱にしてしまうことは、デフレ脱却を真剣に望むことと矛盾してしまわないのでしょうか。


「観光立国」などという言葉をここ数年、よく耳にしますが、デフレの継続を前提とした消極的な発想に基づいているような気がしてなりません。あまり元気が出る政策ではないと、個人的には感じます。


もう一つは、こちらが今回のメルマガで主に言いたいことですが、外国人観光客の呼び込みを重視することは、どうしても彼らの観点を意識することになり、日本人が本当に愛着の持てる街づくり、国づくりが行えなくなってしまうのではないかという点です。


先ほど触れた銀座の街の変容は、この一つの例でしょう。

爆買いの中国人観光客を手っ取り早く呼び込もうとした結果、先人が長い時間をかけて培ってきた

「洗練された」「高級感あふれる」「落ち着いた」銀座のイメージが、残念なことに、

かなり損なわれてしまいました。


先日、藤井聡先生が、本メルマガに「ポケモンGO」の流行に対する懸念についてお書きになっていたことが思い出されます。


【藤井聡】「ポケモンGO」と「国土学」(『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年8月2日付)
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/08/02/fujii-207/



藤井先生のご指摘の通り、それぞれの土地には、そこに根差して暮らしてきた人々が時間をかけて培い、大切にしてきた歴史的、社会的な「意味」があります。

そうした意味を、人々が共有しているからこそ、郷土愛や郷土意識、人々の同胞意識が育まれ、村や町、ひいては国が成り立っているわけです。


「観光立国」などの名の下に、外国人観光客の目を過度に意識した街づくりや国づくりが盛んに行われてしまうようになれば、日本のそれぞれの土地で、先人たちが慎重に培ってきた歴史的、社会的意味が損なわれてしまうのではないかと心配になります。

それが損なわれれば、結果的に、人々の郷土愛や郷土意識、同胞意識にも悪影響が及ぶのではないでしょうか。


適当かどうかわかりませんが、私が以前から少々疑問に思っている例を一つあげましょう。

九州では、2012年から「九州オルレ」なる遊歩道(トレッキング・コース)が各地に作られています。九州の観光業者と地方自治体が組織する「九州観光推進機構」という官民共同の団体が、主に、韓国人観光客を呼び込もうとして作ってきたものです。


九州観光推進機構の作成しているウェッブ・サイトによれば、「オルレ」とは、韓国・済州島の方言で「通りから家に通じる狭い路地」という意味だそうです。

済州島では、トレッキングが徐々に盛んになり、「オルレ」はトレッキングコースの総称として使われるようになったとのことです。


済州島で人気を得た「オルレ」を日本にも持ち込み、韓国人旅行客を呼び込もうということで、九州でもあちこちにコースが設定されました。現在、17コースのようです。それが「九州オルレ」です。


下記のリンク先をご覧になっていただければわかりますが、「オルレ」の各コースには、「カンセ」と呼ばれる韓国・済州島の馬をモチーフにしたオブジェや、韓国的配色かと思われる青と赤のリボン、木製の矢印などが設置されています。

「九州オルレ」(九州観光推進機構『九州旅ネット』より)
http://www.welcomekyushu.jp/kyushuolle/?mode=about



この「九州オルレ」を韓国人観光客誘致の成功事例として紹介している下記のサイトでは、成功の要因を「韓国人目線にたったコース設定、ブランド管理」と論じています。

(「山里を韓国人旅行者がトレッキング!「九州オルレ」〜九州観光推進機構」自治体国際化協会(CLAIR)『クレア・インバウンド・ライブラリー』、2014年11月8日)
http://clair-inbound.net/kyusyu/



このメルマガの読者の皆さんは、「九州オルレ」という試み、どう思われますでしょうか?


ネット上では、賛否両論、さまざまな意見があるようです。「九州オルレ 賛否」「九州オルレ 批判」などの語句で検索してみてください。


私は、正直なところ、あまり好感はもちません。

周知のとおり、残念ながら、日本と韓国は、竹島など領土問題をはじめとして、さまざまな政治的懸案事項を抱えています。

私が、そうした政治的問題に特に関心があるからかもしれませんが、私の場合、「オルレ」のコースに点在する韓国的なオブジェやリボン、矢印を目にすると、どうもそういう政治的懸案事項がいろいろと念頭に浮かんできてしまいます。


九州のそれぞれの土地の持つ歴史的、社会的意味ではなく、何の関係もない日韓の政治的懸案事項のほうに気をとられてしまうのです。


(ついでにいえば、非常に個人的な話で恐縮ですが、野球のWBCで、日本が韓国チームに負けた際に、韓国選手がマウンドに韓国の国旗を立てたことなど、余計なことも頭に浮かんでしまいます…)。
f(^_^;)


私は、例えば「オルレ」のコースも作られている大分県、熊本県にまたがる「阿蘇・くじゅう国立公園」のあたりをよく訪れます。大好きな場所です。

特に、全国的にはあまり知られていませんが、大分県の久住(九重)連峰の周辺はとても良いところです。私は、幼い頃から両親に連れられてよく訪れていました。今でも、私は登山が結構好きですので、年に何回か久住の山々を登ったり、周囲の温泉に行ったりします。


そのときに、「オルレ」のオブジェや標識などを見ると、やはり違和感を覚えてしまいます。

それぞれの土地のもつ歴史的、社会的「意味」が、韓国から観光客を手っ取り早く誘致したいという観光業者や自治体の願望など様々な政治的・経済的思惑によって、乱暴に塗りつぶされているように感じてしまうのです。


「九州オルレ」の事例が適当かどうかわかりませんが、外国人観光客の誘致を経済政策の柱の一つに据えるようなことは、やはり弊害が大きいように思います。


爆買い需要が減速したため、今後の策として、国立公園や国有林を活用して、外国人観光客の誘致を図るとのことですが、それぞれの土地のもつ歴史的、社会的意味が、外国人観光客目線で勝手に塗り替えられたりしないことを強く願います。


そもそも、外国人観光客の需要に期待し、それに依存する他律的な経済政策や街づくり自体を見直すべきでしょう。


各地に根差して暮らす日本の普通の人々の観点に立った、もっと落ち着いた政治を取り戻すべきではないでしょうか。

そのために、皆で、知恵を絞ったほうがはるかに建設的ではないかと思います。
m9( ・`д・_)キリッ

長々と失礼しますた…
<(_ _)>

—発行者より—


(転載終了)


少し前の記事です。(昨年秋ごろ)