「やっぱり真央ちゃん」なシーズン 
大人っぽく進化

プロスケーター 太田由希奈

 フィギュアスケートの2015~16 年シーズンが開幕して2カ月余り、グランプリ(GP)シリーズも残すところ、NHK杯(長野、27~29日)のみになった。五輪の中間年に当たるシーズン は、選手は勝負に徹するというより、冒険的なプログラムを試すことが多い。そのような選手の挑戦が、ファンを楽しませてくれる。「今季は浅田真央選手(中 京大、25)につきるのでは」と、

プロスケーターの太田由希奈さんは話す。


 「お帰りなさい」と万感の思いで言いたくなるよ うな、浅田選手の演技だった。

11月上旬のGP中国杯。「ああ、やっぱり才能あるな」と思った。そこに努力が重なり、1年の休養がいい形で心の栄養になっ て、動きが非常に大人っぽい。グレードアップして戻ってきた。周囲の若い選手の中で、いっそう洗練された雰囲気が際立つのかもしれない。「充実した練習を 積み、良い指導を受けている」と感じられた。


■25歳浅田、年齢と上手に付き合う

  佐藤信夫コーチに師事して4年余り、エッジの一番良い部分に乗るコツをつかみ切っているのだろう。自然に優雅に滑っていてもグングン進む。スケートはエッ ジに正しく乗るだけで、信じられないようなパワーが生まれるものなのだ。時々、新横浜のスケートリンクで練習を見る機会がある。3回転フリップ―3回転 ループの連続ジャンプも安定してきっちり跳べていたから、調子は上がっているとは思っていたが、GP中国杯の演技は本当に素晴らしかった。

  今は得点アップのために難しい入り方をしてジャンプする傾向にあるが、浅田選手は割とシンプルに跳ぶ。

これがとても自然できれいだ。

佐藤コーチの指導のも と、玄人受けする滑りをしている。

若い選手たちはパワーで押していく感じがあるので、見ている私まで思わず力んでしまうことがある。

今の浅田選手は滑るに しても、踊るにしても、理にかなった動きをしているので、見る側にストレスを感じさせない。


 彼女が中学生の頃、私も全日本選手権で同じ試合に出場した。「のびやかに滑る選手、すばらしいな」と思った。

ただ浅田選手が20歳ごろ、心も身体も大人になっていく過渡期に、自分のスケートスタイル を試行錯誤しているような時期もあった。さらに時が過ぎ、浅田選手は今25歳。

体力面を危ぶむ声もあるが、体の変化に慣れて、食生活や休養を上手にコント ロールできているようだ。無駄なエネルギーを使わず、年齢と上手にお付き合いをしている感じがする。
正直、今のルールでは、細くて体重が軽い選手が有利な面は否めない。スピンは速く回れるし、難易度の高いジャンプも軽々跳べる。となると、今の女子フィギュアスケートは、「10代の体」向きのルールになっている部分はある。加えて、若い選手には無限の体力があり、全力疾走で最後までプログラムを滑り切ってしまう。

 女子フィギュア界では、20代半ばになるとベテランといわれる。他の競技なら今から満開を迎える、といった年齢であるのに。その点、浅田選手は自分としっかり向き合えている。25歳だからこそ醸し出せる円熟味が加わり、大人のスケーターとして新たなスタートを切った。

■人を動かす力持っているのも強み

 真央ちゃんを見たい――。そんなファンの熱い思いが14年ソチ冬季五輪の前、浅田選手の肩に重くのし掛かっていると思った。ところが今は、注目も期待も上手に受け止めている。本人はスケートが大好きで滑りたくて仕方がなく、多くのファンはなお真央ちゃんを見たいと思っている。一方で、浅田選手を支えたいと思う人が周囲にいる。それらの力がうまくかみ合っている。そのような選手は珍しいのではないだろうか。人を動かす力を持っているのも、浅田選手の強みだろう。



 今季、浅田選手のライバルになりそうと注目しているのはグレーシー・ゴールド選手(米国、20)。これまで米フィギュア界を飾ったスター選手とはタイプが違う。ミッシェル・クワン、メリル・デービス両選手らのように「上品で真面目で女子フィギュアスケートのお手本」というのが、米女子のスターだった。ゴールド選手はもう少し自由に「私はスケートが好きだから滑っている」というのを見せるタイプ。日本に来ると「原宿ガールになりたい」と言って買い物に出かけるなど、自分を偽らないかわいらしさがある。それがスケートにも表れており、今季の彼女はとても頑張っている。



ロシア勢はというと、やはり強いと言いたいが、今季はどうなるのか。ユリア・リプニツカヤ、エレーナ・ラジオノワ両選手は一気に背が伸びてジャンプのバランスが変化している。自分の体に慣れるのに時間が必要だろう。


 昨季世界女王のエリザベータ・トゥクタミシェワ選手をはじめ、アンナ・ポゴリラヤ選手ら次々に出てくる選手は10代ばかりで、これから大きな変化を越えていく時期にある。辛抱の末の成長に期待したい。ソチ五輪女王のアデリナ・ソトニコワ選手も忘れてはいけない。ソチ五輪以来、今年10月のジャパンオープンを除いて、試合に出場していなかった。とはいえ、GPロシア杯では、女子表彰台をロシア勢が独占し、ソトニコワ選手は3位に入った。やはり人を魅了する力があり、侮れない存在である。

■長身選手ならではの魅力持つ本郷

 日本勢は、昨季の世界選手権銀メダリストで、お手本のようなスケートをする宮原知子選手(大阪・関大高)が、昨年よりも大人らしいプログラムできっちりまとめてくるだろう。




 本郷理華選手(邦和スポーツランド)もかなり良いと思う。昨季の世界選手権は6位だったが、今年のプログラムは本郷選手にとても合っている。166センチの長身選手であり、手足の指先まで気遣った演技をすることにより、洗練されたプログラムに仕上がっている。ダイナミックな演技が持つ魅力は何ものにも代えがたい。ソチ五輪銅メダリスト、身長169センチのカロリナ・コストナー選手(イタリア)が足を伸ばすと突き刺さるような迫力があった。本郷選手もコストナー選手のような存在感のあるスケーターになれる身体を持っている。

 おおた・ゆきな 1986年11月生まれ、京都市出身。2003年世界ジュニア選手権の女子シングルを日本勢で10年ぶりに制し、シニアデビューとなった04年四大陸選手権で優勝。その後、右足首のケガで試合に出られない日々が続いたが06年に復活。同年、拠点を東京に移し、樋口豊コーチの指導を受ける。08年に引退後、プロスケーターとしてアイスショーなどで活躍。明治神宮外苑フィギュアスケートクラブでノービス(小学生)世代の子供を指導するほか、解説者としてテレビなどに出演。






*太田由希奈さんの演技も好きだった。
バンクーバーの時、真央ちゃんが銀メダルであった
事に対し、「銀盤の女王はやっぱり銀なのかな」と
瞳をうるませていってくれたこと、
その後、ジャンプの見直しを始めてなかなか
うまく決らなかった頃にも樋口先生と一緒に
励ましの言葉をかけてくれてたことも印象深い。
樋口先生も、真央ちゃんがイチから見直しをはじめ、
それがいかに大変なことであるかを理解して
声を詰まらせ、涙ぐんでおられた。
お二人とも優しく、暖かく真央ちゃんを見守っていて
くれている・・・そう感じたものだった。