奇縁まんだら⑤ー寝た寝ないで男を判断する美人老作家ー宇野千代 | 京都案内人のブログ

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ある日、京都の寂庵を訪ねて来た

老作家がいた。

それは突然の訪問だったらしい。

寂聴さんは、どうもてなしていい

ものか、すっかり上がってしまっ

て、祇園の料亭の仕出やら舞妓も

お茶屋から来てもらったらしい。

 

 

若き日の宇野千代 画:横尾忠則

 

 

 

接待を受けるのはあの宇野千代。

 

瀬戸内さん、これはやり過ぎよ

と吹き出したそうだ。

 

 

この日、宇野に関する年譜や作品

に登場する、男性の名前を書いた

一枚の名簿を置いて聞いてみた。

 

瀬戸内さんは、どういうご縁で

先生の小説にどんな影響を与えた

のか。と、訊くつもりだった。

 

 

それを指で示すと、間髪を入れず

宇野千代の高い声が返ってきた。

「寝た」

度肝を抜かれながらも、次を指す。

「寝た」

 

この後、すべてがネタ、ネナイ、

ネタの連発で、ネナイよりネタ

方がずっと多い。

 

その答える時も表情は玲瓏として

明るく、声はあくまで天真爛漫

であった。

 

初めは驚いて、狼狽えていたが、

そのうち宇野さんが観音様の

ように見えてきた。

 

 

 

晩年の宇野千代 画:横尾忠則

 

 

 

宇野さんとこの世で縁あって関わ

った男のすべては、千代観音の

捨身の広大な慈悲を受けて、

有難い恩寵を頂いたのに過ぎない

と思えてきた。

 

 

宇野千代が一番好きだったのは、

尾崎士郎だという。

御歳85歳のことだった。

 

 

 

 

 

瀬戸内寂聴「奇縁まんだら」より

著:瀬戸内寂聴 

画:横尾忠則

発行:日本経済新聞出版社