刑務所では毎日、大小の揉め事が起きていて、日本の中でこれだけ口論や殴り合いが日々、発生している環境って…刑務所以外ない気がします。

そしてそんな世界だからこそ、こっちが注意してても、揉め事に巻き込まれる瞬間がたくさんあります。


以前の話ですが、工場の休憩時間中に先輩からお茶をすすめられ、既に何杯も飲んでいたので「もう、たくさん飲んだんで大丈夫です!」と断ると「いいから飲めよ」と言われました。

刑務所は自由にトイレも行けないし、その時期は真冬だったこともあり、「いや、トイレ近くなっちゃうんでもう大丈夫です!」と再び断ると「いいから飲めって言ってんだよ!」とさっきよりもイラついた態度でヤカンを持ち上げて、湯呑みにつごうとしてきました。

「まじで大丈夫です!」と言うと、強制的にお茶をつかれましたが、飲まずに放置して休憩時間が終わると…事件は起きました。


作業再開後、その人と同じ班だったので、いつも通り流れで共同作業を始めると…突然「おい!てめー、なんでその箱をこっちに持って来ねーんだよ!」とものすごい剣幕でブチキレてきたのです。


あまりのキレ方にびっくりして、「え!?」と目が点に…どう考えてもブチキレられるミスをしておらず、理解不能な突然の事態に頭の中は『?』一色でした。


しかし、先輩は「おい!なめてんのか、このヤロー!」とこちらに近づいてきます。

とりあえず「ちょっと落ち着いて下さい」となだめようとすると…更にヒートアップして「あ!?てめーぶっ殺すぞ!」と顔を数十cmの距離まで近づけてきて、目もギンギンに決まり、もはや『チンピラモード』に(背中一面に見事な入墨が彫られ、イケイケの方だったので、通常モードかもしれませんが…)


これはヤバい…と思った瞬間、喉に凄い勢いで相手の掌底が飛んできました。いわゆる『喉輪』です。


そのまま喉をグッと締め付けられ、壁にバーンと押し付けられましたが…なんとか振り払って、脱出しました。


普通ならすぐに職員が気づきますが、ちょうど自分たちの姿が機械の陰に隠れる形になったので気づかれず…修羅場に。

ただ、周りの懲役たちが察知して、何人かが間に入って止めてくれました。


すると、相手は騒ぎが大きくなることを気にして「目障りだから消えろ!」と言って、その場から離れようとしたタイミングで…職員がやってきました。


本来なら有無を言わさず、2人とも連行され、『喧嘩両成敗』で懲罰を受けるところ「お前ら何があったんだ?」とその場で話を聞いてくれました。


その時には、さすがに急にブチキレてきた理由は『休憩時間のお茶のくだり』と察しましたが、相手は「作業の段取りでAさんと食い違いがあったんですけど、もう話して解決したんで大丈夫です」と平然と職員に言い始めたのです。


職員から「そうなのか?」と聞かれ、その瞬間…頭の中で考えました。

ここで自分が「はい!もう大丈夫です」と言えば懲罰にならずに済むけど…この人は、きっとこれからもこういう横暴を繰り返すはずだし(実際、何人も懲役が被害を受けてました)、何より手を出されて、このまま引くのは絶対嫌だ!と言う感情が強く…一瞬で覚悟を決めて「いや、全然話が違います。自分はこの人ともう一緒に作業できません」と答えました。

「そうか…じゃあお前ら2人とも処遇に連行するぞ」と職員が言いかけたタイミングで「ちょっとだけ、Aさんともう一度、話させてくれませんか?」と相手が言ったのです。


職員は渋々「俺の目の届くところでだぞ」と許可をくれ、職員から数歩、離れた所で小声で話す事に。


何を言ってくるかと思ったら…相手は開口一番「俺が悪かった。ちょっと熱くなりすぎた」と言い、更に「仮釈の事を考えると、ここで懲罰に行きたくないんだ」と言ってきました。

当然、納得できず「無理です。あんなお茶のやりとりで、手まで出されて、なかった事にできないんです」と答えると「どうしても…」と粘られ、だんだんと…こんな人と一緒に懲罰に行く事が馬鹿らしくなりつつ、このまま引く事は嫌だったので「わかりました。手を出された分一発顔面殴らせてください。それでチャラにします」と言いました。


相手は「わかった。それでチャラにしてくれ」と了承したので話はそこで終わり…なんとか懲罰にならずにすみました。


ちなみにその先輩は結局、自分と揉めた数ヶ月後に別の懲役と揉めて、懲罰に消えることに。


職員の優しさで、あの場は収めてもらったから、自分は助かったものの「本当に紙一重だったんだな…」と痛感しました。


こんなふうに様々な形で揉め事が発生するのが刑務所です。

くだらない意地やプライドはるより、頭下げて先に出所した方が勝ちだよ」と言う人の気持ちはめっちゃわかるし、その通りですが…『無事故・無違反』『仮釈放』にこだわり全て黙って、我慢し続ける生き方に対し…どうしても100%、納得できない想いもあります。


損得で考えれば、マイナスかもしれないけど…懲役25年の自分にとって、刑務所生活は『仮の生活』ではなく、『人生の大半を占める日常』です。


この中の生き方そのものが自分の『人間像』を創っていくからこそ、1つや2つ、くだらない意地を持ち続けてもいいのかな…と思っています。


そして、自分自身…己の欲を満たすためだけに他人を傷つけ…今、刑務所にいるということの重みを考えて、生活していきたいです。


今回も読んでいただき本当にありがとうございました。

感謝しています。

@懲役25年受刑者