【タイトル】 羊をめぐる冒険 (上)(下)

【著者】 村上春樹

【出版社】 講談社(講談社文庫)

【発売日】 1983

【読了日】 2022/5

 

【読んだきっかけ】

本棚の奥に保管していた村上春樹さんの文庫本たち。20年以上経ち劣化が激しいため処分することに。処分前に、個人的再読キャンペーンを始める。

 

上巻は、自分が初めて北海道を訪れたときに購入。大学1年、サークル仲間との北海道旅行で現地解散し、帰りの電車、青春18きっぷのひとり長旅に備え、函館駅近くで購入したもの。

まだ「鼠三部作」とかを知らない頃で、裏表紙の紹介文に「北海道」を見つけ手に取ったのかな?と思い返す。

 

【感想】

村上春樹さんの小説は、いつもスルスルと読み進めてしまう。多少わからないことや振り返りたいことがあっても、リズムが心地よいのかな、止まりたくないのだ。読後に内容を振り返ったりするかというと、別にそれもない。多少余韻を感じつつも、自然に始まり自然に終わるような、日常の一部の感覚。

というわけで、一度読んだ小説の内容を覚えているかというと、ほぼ覚えていない。

「羊をめぐる冒険」、おそらく読んだのは今回で3度目。どんな話だったか?今回読む前は、北海道が舞台で、北海道開拓の歴史が出てきて、羊男はドーナツが好きで、愉快な話だったような気がしたが、まったく間違っていた。(後で気づくが、「図書館奇譚」と記憶が混ざっている)

 

あるものを失った話から物語は始まる。さらに主人公の「僕」は、離婚する(妻を失う)。仕事を辞める(長年の仕事のパートナーを失う)。「鼠」はどこにいるかわからない。地元に帰れば街が大きく変わっている。出会いもあるが、大事な局面で大事な人が消える。「鼠」は、いない。「羊男」は、いる。最後はすべて、「僕」が、消す。

「僕」は思い切り怒り、思い切り泣く。

再読して、この物語に静かに流れるテーマのようなものを味わった。


世の中の移り変わりも面白い。この作品が書かれたのは1980年代前半。

電話といえば、家の電話か、喫茶店の公衆電話。喫茶店やタクシーなどあらゆるところで喫煙可能。電車は国電。地図といえば、紙の区分地図。テレビのボリュームの「つまみ」。トランジスタラジオやレコード。

自動販売機の「釣銭」ですら、懐かしいものに突入しているのかもしれない。

こう並べてみると、一人一台スマホの現代はすごいな。

 

北海道が舞台である記憶が強かったが、舞台がいざ北海道に移るのは下巻からであった。北海道に渡るきかっけ、背景、必然性を理解することがこの物語の肝であることを、再読して実感。