町田市立国際版画美術館で開催中の『自然という書物 15~19世紀のナチュラルヒストリー&アート』展。以下画像はインターネットよりパブリックドメインのものを使用。

マルティン・ションガウアーの『受難伝』より《ピラトの前のキリスト》

マルティン・ショーンガウアー  (1450–1491) Pilate Washing His Hands   Engraving
メトロポリタン美術館 343×225mm 紙、木版

 

マルティン・ショーンガウアーの版画は図版ではいろいろ見たが,実物をきちんと見たことがなかったのだが、展覧会で最初に見たのが、いわゆる画家の作品ではなかったこともあり、この作品の密度の濃さ、強さに打たれた。展覧会の図録の解説では,「犬」に注目。ピラトの足元の毛むくじゃらの犬と段差の下から鼻を近づける短毛の犬。静かなキリストと周囲の醜悪な表情の人間との対比が犬たちの関係にも反映されているとのこと。それはそれとして、やはりこの人間の身体の描き方、独特のくねくねとした姿勢がいかにもドイツの伝統だという感じがした。しつこい程描きこんでいる・ただ背景や足元の階段は空白が多くなっている。この顔は特定の誰かをモデルにしたというより、ある種の典型を表わしているように思える。同様に、犬も実際に観察したものというより,類型を表わしているようだ。その意味では,デューラーも同様。

Albrecht Dürer, The Flagellation, c. 1497

この犬は半身の毛がないが、ここではデューラー自身を反映した一種の記号であろうとのこと。背景の建築まで描きこんでいるところはさすが。デューラーの描写力があれば,描けぬものなどないだろうが,だからこそ全くかけ離れた犬の画像なのだろうと思う。