Riemenschneider in Rothenburg: Sacred Space and Civic Identity in the Late Medieval City, Katherine M. Boivin著,Pennsylvania State Univ Pr 2021/5/2 第2章聖血祭壇

『ローテンブルクのリーメンシュナイダー』というタイトルの著作を読んでいる。第1章はパトロンとしてのcity、第2章は巡礼環境で、その第1節は聖血の遺物の宣伝、第2節聖ヤコブ教会の西端と続き、いよいよリーメンシュナイダーの聖血祭壇。この本,kindleで読んでいるのだが,全232ページのうち68ページまで、つまりおよそ30%までは彫刻家リーメンシュナイダーの名前はほとんど出てこなかった。しかし,中世都市の実権が市民に渡るプロセスの跡付け、聖遺物の引き起こす奇跡の宣伝方法、後期ゴシック建築の特徴など、自分の知らないことが多くとても興味深いものだった。さまざまな知見を頭に入れたところで,一番関心のある部分に来たところ。

 

 最初に感じたのは、彫像を制作したリーメンシュナイダーだけでなく、彫像を入れる入れ物,armatureを制作したjoiner(指物師)のErhart Harschnerの仕事にもかなり重点を置いて書いていることである。指物とは、板を組み合わせて作られた家具や器具を作る職人のこと。市当局は1499年にまずハーシュナーと契約を結んだ。リーメンシュナイダーと契約を結んだのは1501年。報酬はハーシュナーが50guilders で、リーメンシュナイダーが60guilders。単純に金額で見ると、ハーシュナーの制作部分は対等とまではいかなくても、かなり重要な意味を持つだろう。その割に,今まで読んできたこの聖血祭壇の関する論文の中で,ハーシュナーの制作した部分に触れているものは,ほとんど無かったように思う。私自身も興味がなかったが,この著作で初めて目を向けることができた。

 

聖血祭壇の全体。

 Holy Blood altarpiece photo by Dr.Volkmar Rudolf  CC BY-SA 3.0

 

一番下の部分の拡大図。

.

Heilig-Blut-Altar in St.Jakob in Rothenburg ob der Tauber photo by Tilman2007 

CC-BY-SA-3.0

上記著作の、その部分の概要。

 祭壇のテーブルの幅に正確に合わせた透かし彫りのプレデッラ。左右に円形の台座から、多角形を組み合わせた複雑な階段状の支柱。中に3 つのアーチで区切られたスペースがあり、真ん中に磔刑像、両脇にはいわゆる受難具:鞭打ちの時の柱と十字架を捧げもつ一対の天使。細い内側の支柱はより、これら の同じ奇抜な表現を繰り返して、さらに細く絡み合ったつるを伸ばして行く。この中央のスペースには磔刑像が納められているが、かつては視覚的聖体拝領のためのホストをふくむmonstrance聖体顕示台だったとのこと。

 

 

以下、私見。この一番下の部分を、これまで詳しく見たことがなかった。というのもこれらの像は、あまり質が高くなくマイスターの手ではないだろうと言われていたので。天使像の顔や不自然なドレイパリーも型をなぞったように感じる。だが、このスペースの造形はとても複雑で細かい造形を見せている。卓越した指物師の仕事。

 教会の儀式としては、この真ん中の部分に聖杯や聖体を置いていただろうということなので、最も重要なスペースと言える。祭壇の後ろ側が透けて見え、空間に浮かび上がるような印象もある。プレデッラとは祭壇の最下部の横長の部分で、今までちゃんと見てこなかったが、取り出してみればその造形も考え抜かれたものであることがわかる。この場合はリーメンシュナイダーというよりも、Erhart Harschnerの仕事についてだが。