『ブリューゲルの世界』(マンフレート・ゼリンク著,熊澤弘訳,パイインターナショナル 2020)
《農民の踊り》より。

    Peter Brueghel the Elder: "The Peasant Dance".1567 ウィーン美術史美術館

この場面についてこの二人が何を話しているか知るすべはないが,ゴシップかそれとも丁寧に描かれた水差しに入れられた飲み物を飲むように勧めているのか?また二人の間の奥に男が家の中から両手で女を引っ張り出そうとしている場面,女性は嫌がっているのか、それとも形式的なポーズか? などとゼリンクは書いている。この作品に登場する人物たちが実際には何をしているのかはよくわからないが,それでもたのしそうな農民たちの雰囲気は良く伝わってくる。そしてこのジョッキ,農民の婚礼にも描かれていた,またバグパイプも。お気に入りのモチーフか。このジョッキを持つ鼻の赤い男,いかにも身近にいそうである。これはこれでリアルだと思うのだが,ブリューゲルはこれだけの腕を持つのだから,その気になればいくらでも美しい人間を描けると思うのだ。キリストやマリアの崇高とも言える表情はあったと思うが,彼の作品で美しさを感じさせる顔は見たことが無い気がする。不思議だ。それとも,唯一の弱点がそれ?

 

 なぜ美しさにこだわっているかと言えば、最近橋本治の『ひらがな日本美術史』を読んだ。長谷川等伯と狩野永徳を比較して、等伯の楓図は「美しい」が永徳はそうではないと書いてあったので。この話は後で書くかもしれないが。

 レンブラントも「美しい」だけの顔は描かなかった画家。