『ブリューゲルの世界』(マンフレート・ゼリンク著,熊澤弘訳,パイインターナショナル 2020)
《怠け者の天国》より。掲載されていた細部があった。

これは一見、何をしているところか分からなかったが,ゼリンクの書には「ユートピアである《怠け者の天国》にたどり着きたい人はみな、小山のそば粥を食べて通らなければならない、と言い伝えられた」「スプーンを握ったまま、食べつくしたトンネルから転げ落ちている。この豊かな土地には豊富な食料があるのだが,彼に食欲が残っているかどうかは別問題である。」(p222)

 

 そば粥と訳されているが、原文ではどう書かれているのか気になった。「a mount of buck-wheat porridge」とある。日本でたべる麺の蕎麦ではなく,そば粉のおかゆである。フランスには蕎麦粉のガレットというのもある。ヨーロッパでもそば粉は使われていたということか。ただほんの少しではあるが,中世の農民の食べていたものについて読むと、キビのかゆと言うものは出てきたが、そばは出てこなかった。果たしてどうなのか? もとはオランダ語で書かれたのだろうが、そこになんと書いてあったのか疑問が残る。

いずれにせよさほどおいしいものとも思えないし,まあどんなに美味しいものでも小山一杯の同じものを食べたら,食欲はなくなるだろう。ブリューゲルの描く食べ物は、見るからに美味しそうなものはないような気がする。

 と書いたそばから,芸術新潮で「ブリューゲルの食卓へようこそ」という文があったのを思い出した。(芸術新潮2013年3月号) この《怠け者の天国》の話はないが,《穀物の収穫》で農民たちが食べているシーン。ふだんのご飯は、パップと呼ばれるおかゆで,安価な雑穀,大麦、粟、稗,キビ、オート麦をぐつぐつと煮てミルクを加えたものだそうである。

これは美味しそうに見える。食器は皿もスプーンも木製のようだ。ただし森洋子氏によれば、ミルクと言ってもバターミルクと言ってバターを作った後の脂肪分の抜けた酸っぱいミルクらしいので味はどんなだったか? ブリューゲルの時代の農村の人々がなにをどのように食べていたかと言うことも興味深い。