三菱一号館美術館で開催中の『ヴァロットン 黒と白』を見た。美術館が持つ180点のコレクションを一挙公開ということで、かなり見応えがあった。chapter II 「パリの観察者」の一室は撮影OKだった。ヴァロットン(1865-1925)は1865年にローザンヌ生まれ,16歳の時にパリに出てきたという。その彼がパリで観察したもの。wikimediaからパブリックドメインの作品を何枚か載せる。

暗殺 1893年 木版

 

街頭デモ 1893年 木版

白と黒だけで構成されている瞬間を切り取った作品。

 

帰宅してから調べたら油彩もかなり描いているし,ジャンルも風景画から肖像画,ヌード,静物画と幅広い。彼は1900年にフランスの市民権を得る。1914年の第一次世界大戦が始まると軍隊に志願したが,48歳という年齢を理由に拒絶。しかし1917年にほかの画家と共に最前線に3週間派遣されてスケッチを作成、それを元に油彩画を完成させた。

ヴェルダンの戦い 1917 パリ軍事博物館

Félix Vallotton, le cimetière de Châlons-sur-Marne, 1917

ヴェルダンの戦いとは第1次世界大戦の1916年2月から12月までのあいだフランス軍とドイツ軍のあいだでの戦闘,双方合わせて70万以上の死者を出したという。ヴァロットンが派遣されたのは1917年だから実際のヴェルダンの戦いは見ていないと思うが。青や赤の閃光,戦う人間の一人もいない空間。下の作品はその死者を弔う墓地。延々と視界の限り続く墓標、墓標,墓標。

 

三菱一号館美術館の展覧会は,黒と白の木版画のコレクションを元にそれに焦点をあてたもので,展覧会のコンセプトとして明確だし,それに文句があるわけではないが,パリという都会の不穏さや人間の残酷さを見た画家が,後年に描いた作品についても少し触れてほしい気もした。ヴァロットンという画家の全体を把握することは難しい作業だろう。無いものねだりではあるし的外れだとも思う。

 

 なぜそう思ったのかといえば,グッズ売り場の雰囲気があまりにも,白と黒のスタイリッシュなモノで違和感があった。彼の木版画はかなり毒のある作品だと思うが,Tシャツやクリアファイルや絵葉書に商品化されてしまうと毒抜き? されて,ただの“オシャレ”なモノになってしまう。それはちょっと違うのではないか。