『ブリューゲルの世界』(マンフレート・ゼリンク著,熊澤弘訳,パイインターナショナル 2020)
《サウルの改心》より。

1567 ウィーン美術史美術館

この作品については,『ブリューゲルの世界』の「騒々しい世の中」という章のタイトルの背景になっている。それが以下の部分。

馬から落ちたサウル後のパウロが改心する場面は、右上目立たぬところに描かれている。これもブリューゲルがよく使った手法。もう一枚の細部は以下。

この黄色の衣装をまとった後ろ姿、馬たちの後ろ姿が印象的。

ゼリンクが書いているのは,ブリューゲルが生きていた時代は「社会不安、貧困,不安定,飢饉,暴力,異端審問、抑圧などが当然の秩序であった。」しかし一方経済的に活性化し,「アントウェルペンは爆発的な成長を遂げ北西ヨーロッパを代表する文化・商業都市となった。」ということも事実であり「様々な国籍の人文学者や芸術家、印刷業者、出版業者が出会う場となった。」ブリューゲルは「」書籍出版業者クリストフ・プランタン,版画出版業者ヒエロニムス・コック,画家のフランス・フロリス,地図製作者のアブラハム・オルテリウスの同時代人である,ということだ。」(p91)  当時の社会が、厳しくもあり,豊かでもあったという見方はバランスが取れていると思う。現代の社会を語る時でも,あまりに悲観的な見方も、あまりに楽観的な見方も偏っている気がするのである。