『ブリューゲルの世界』(マンフレート・ゼリンク著,熊澤弘訳,パイインターナショナル 2020)
《洗礼者ヨハネの説教》より。

1566年 ブダペスト国立西洋美術館

この作品で,ゼリンクが注目する細部はまず聞き入る群衆と,その肩越しの川岸の街。

ゼリンクによれば、「1565年から66年にかけて、町や村の外でカルヴァン派の巡回説教師たちが違法に開催した“辻説法”は何百人,何千人もの観客を集めるほど大流行した」(p50)とのこと。この群衆の肩越しの町の描写が素晴らしい。ゼリンクの著書には図版はないが、さらに細部を見る。

 

この集会の聴衆に「ジプシー」という小集団がいる。手前の色鮮やかな服を着た3人,「麦わら帽子をかぶった女性,縞模様のローブを着た男,そしてもう一人,ベスト,バンダナ,おさげ髪の男性ーが,みな後ろ向きで描かれている。」 これはおそらく主題的な対位法としての意図で,身なりの良い町の人,熱狂する聴衆へのメッセージに向けた皮肉?と書いている。

この作品は,洗礼者ヨハネがほとんど目立たず,こういう構図もブリューゲルにはよくあるのだが,一番目立つのは,この3人と手前両側の樹木というのはどういうことなのだろう。この絵にも注文者がいたのだろうと思うのだが,どういう意図で注文したのか不思議に思うが,ブリューゲルは,この色鮮やかで,集会に熱中するわけでもない3人をこそ描きたかったのだろう。特にこの右側の人物のコスチューム。