『ネーデルラント美術の誘惑』(ありな書房)の第5章「ピーテル・ブリューゲルのウィーンの《バベルの塔》を詳察する」(森洋子執筆)に沿って。都市の景観。塔の左側には,「彼が実際に見たヘント,ブリュ-ジュ,アントウェルペン、ブリュッセルなど」が描かれているという。特に当時住んでいたブリュッセルに比重が置かれている。

16世紀のブリュッセルにはまだ13世紀ごろ造られたリング状の市壁があり、一定の間隔で見張り塔があった。

見張り塔の一部は今も保存されているという。また14世紀に建てられたハレ門らしき建造物もある。(ハレ門も現存)

ブリューゲルがマイケンと結婚したノートルダム・ラ・シャペル聖堂。(現存)

中央付近に見える独特な塔の形からこの聖堂ではとのこと。

その他にもヘントの商館群やブリュージュの中世的な城砦と鐘楼、メッヘレンの古民家なども描かれているという。川沿いの建物が立ち並ぶ感じはブリュージュを思わせる。

当時の人々は,この作品を見て自分の知っている建物を見出すこともできたのだろう。今もその建物が現存しているということも驚きだが,知らなくても、繁栄する都市の様子はわかる。

 

 一方,都市景観というテーマなので,森氏の論考には記述はないが,城壁の向こうの風景も魅力的。手前の密集した建物が立ち並ぶ都市とはうって代わった広々とした郊外,遥か遠くの山々,空に飛ぶ鳥。版画の下図で十分に培った風景画の経験が生きている。大きな川には船が浮かび,右奥へと続く道には小さく人物も描かれている。