マールの『キリストの聖なる伴侶たち』(田辺保訳、みすず書房)に載っている聖ヤコブの続き。
「服装,持ち物とも次第に巡礼姿に変わっていく聖ヤコブ」

フランスの大聖堂の入り口に十三世紀から残されてきた使徒像を調べると,「聖ヤコブに与えられている唯一の持ち物は,剣である事に気づく。」(p252)

シャルトルの南入り口。

Chartres - south portal - central bay - tympan

 

ドアの真ん中にキリストの像。両脇は使徒像。キリストの右側はペテロ。左側のキリストに近い方から,剣を持つ聖パウロ,本を持つ福音記者ヨハネ,剣を持つ聖大ヤコブ,棍棒を持つ小ヤコブ,この写真では写っていないが,聖バルトロマイ。

使徒たちの像。

Chartres - south portal - central bay - right part

 

聖ヤコブは自分を切った剣を大事そうに両方の手で抱えている。足元に彼を死に追いやったヘロデ王。ヤコブの特徴は,巡礼用の食料袋を方から斜に掛けているところ。袋と彼の上着に貝殻がついている。

 

アミアン大聖堂(完成は1266年)

Amiens Cathedral  Statues of the west portals , the Portal of the Last Judgment

 

この左から三番目,ここでも剣をしっカリと抱え,巡礼袋を斜に掛けている。マール曰く「この作品には,もうシャルトルのそれのような古風な味わいはない。」

年代的にはシャルトルの方が古い,火災で焼けて再建されたのが1220年頃。

 

シャルトルが出てきたので,とても美しいシャルトルのステンドグラスも挙げよう。聖ヤコブの生涯 聖ヤコブと魔術師ヘルモゲネスとの戦いが描かれている。

 

フランスにとって,聖ヤコブへの信仰とそれをキリスト教芸術に表現しようという思いはとても強かったのだろう。教会の中で,このステンドグラスを見たときの当時の人々の思いは想像もつかない。いろいろな時代のヤコブ像を、エミール・マールとともに見てきたが,この12,13世紀の彫刻像の引き伸ばされた長身のヤコブ像が良い。動きはあまりないが,それがかえっていろいろな想像を働かせることができる。そしてこのステンドグラスの宝石のような色合い。シャルトルに行っても、ここまで細かく見ることはできなかったが,あの大聖堂の空間に身を置いて感じることできたという体験は得難いものがあった。また再び訪れたい。