マールの『キリストの聖なる伴侶たち』(田辺保訳、みすず書房)に載っている聖ヤコブの続き。
「聖ヤコブとスペイン」

聖ヤコブの墓がスペインにあるという物語が根付くと.次に危機にあたって聖人が突如出現するという伝説が成長していく。最古のものは9世紀から,そしてスペインのレコンキスタでも姿を現し「マタモロス(モール人 ※イスラム教徒 を斃す者)」と言う名を得た。「こうしてスペインの騎士道精神は,聖ヤコブを戦士に変えてしまった。」(p228)

画像はマールの著作とは異なる。この種のレリーフは数多くある。

Salamanca - Iglesia de Sancti Spiritus

 

北ヨーロッパで馬上の聖ヤコブ像が現れたのはずっと遅く、コルマールの巨匠マルティン・ショーンガウアーの影響が大きいという。1470年前後の作品。(※マールの著作には画像なし)

Martin Schongauer, The Battle of Saint James at Clavijo, c. 1470-1475

 

「アルブレヒト・デューラー以前に,いかなる版画家もこれほどに人々の嘆賞の的となった者はなく,また頻繁に版を重ねたものはなかった。」フランスでは特にステンドグラスの絵描き職人が,ここから霊感を得たという。またグリマニ聖務日課書のミニアチュールにも版画の名残がある画像があるとのことだが,残念ながらみつけられなかった。

 

調べていく中で,いかにフランスに多くの教会があって,また以下に多くのステンドグラスがあるのかよくわかったが。ともかく,聖ヤコブ,いつのまにかイスラム教徒との戦いの先頭に立つ騎士になって行ったということ,本人は知る由もないが,仮に知ったとしたらかなり驚くだろう。危機の時に現れて,助けてくれる騎士として白馬にまたがる聖ヤコブと言うテーマは,大量に制作されていて,戦う相手もイスラム教徒だけでなくなっていったようだ。

 マールの著作を読んでいると、絵画というのはキリスト教芸術のほんの一部ということがよくわかる。建築,彫刻,版画,装飾写本……。マルティン・ショーンガウアーについても,絵画だけ見ていたら視野に入ってこなかっただろう。ショーンガウアーの影響力の大きさを改めて見直した。