『初期キリスト教美術・ビザンティン美術』(ジョン・ラウデン著 益田朋幸訳、岩波書店、2000年)の続き。第3章 異教徒と銀行家 より。

「見る者にいちばん近く,窓の高さに等しいアプシス左右の壁面には,2枚のお馴染みのパネルがある。皇帝ユスティニアヌスと皇妃テオドラ,侍臣たちを表わしたものである。」(p131)

Court of Emperor Justinian with (right) archbishop Maximian and (left) court officials and Praetorian Guards; Basilica of San Vitale in Ravenna, Italy. 

Theodora mosaik ravenna

 

「2枚のモザイク。パネルの人物像は正面を向いているように見えるが,手足の方向から判断すると,モザイク作者は行進を表現したかったようだ。」(p131)どちらも東の方向へ進む。皇帝の先導をするのは3人の聖職者で先頭は香炉,次は宝石で飾られた福音書,3人目の司教マクシミアヌスは十字架を握る。端の兵士たちは盾にキリストのモノグラムをつけている。

 皇妃の方は,「左の廷臣がカーテンを持ち上げ,一行を泉のある中庭から,ドアの向こうに導こうとする。」皇妃は聖杯を捧げ持ち衣装のふちにマギの捧げ物の図像。皇族は皇妃の侍女たち。

 このモザイクは一見そう見えるような歴史的事件の記録ではなく,「ユスティニアヌスがこの町の大規模な建築計画に関わった事実もない。」(p133) これを読んで,実は驚いた。ユスティニアヌスが描かれていることは知っていたので,てっきり皇帝の命令で造らせたと思い込んでいたのだ。この作品はもっと一般的なことを表しててい「マクシミアヌスと聖職者たちは,皇帝夫妻を,天国のキリストに案内するための典礼に招いている。」聖ウィクタリスと聖エクレシウスはすでに天国に到着し,司教たちは道の途上にあるというプログラム。前も見たようにアプスのキリストの両脇にすでに位置している。

左側が聖ウィタリス,右側が司教エクレシウス

テオドリクスのサンタポリナーレのキリストと聖母の行進が,全く別の空間構成の中にここに描かれたというのである。

 この壮大な聖堂(聖ウィタリスに捧げる)がなぜこの時期建設されたかについては、ミラノへの対抗意識かという説が述べられている。(ミラノの重要な聖人ゲルウアシウスとプロタシウスの父がウィキタリスだとか)

 

このサン・ヴィターレのモザイクは世界で最も美しいモザイクとも言われているそうだが,図像で見た限りでは,美しいとは思うが,あまり感動は感じられなかった。自信に満ち溢れたその正面観は苦手。

 その場の空間と光で見なければ本当の様子は分からないとは思うが。下敷きであっただろうサンタポリナーレ・ヌオヴォの行進(変更前のテオドリクスの行進)のほうが、きっと素晴らしかったに違いない,なぜならそれこそがオリジナルだから。と検証しようのないことを書いておこう。