プルビュスについて何か,日本語で書かれたものがないかと、まずは自分の家の本棚を探してみた。目を付けたのがありな書房から出ている北方近世美術叢書Ⅲの『ネーデルラント美術の誘惑 ヤン・ファン・エイクからブリューゲルへ』(廣川暁生ほか ありな書房2018)。索引を引いたら、2か所に名前があったので,その1か所めから述べよう。
第2章 ヤン・ファン・エイク《ロランの聖母子》と都市描写の伝統(今井澄子)
ブリュージュにアトリエを構えたヤン・ファン・エイクは15世紀前半に都市の風景を包括的にとらえた。たとえば《ロランの聖母子》
この聖母とロランの間の後景がすばらしい。
「川をはさんで左右に立つ修道院や聖堂,さらには街をいきかう人々までもが,おそらく極細の筆と虫眼鏡を用いて精緻に描かれている。」(p52)
精緻だが、これは現実のブリュージュの実景ではなく、様々な都市を思わせ理想的な都市を描いたらしい。このファン・エイクの俯瞰的な都市描写は様々な画家に模倣された。他方で実景の描写と思われ作品も出てくる。16世紀になっても,描かれ続け,特に肖像画の背景に描かれた。その例としてピーテル・プルビュスや,アントーン・クレイセンスの作品があげられた。プルビュスの作品はこの本には画像がないが1551年のグルーニング美術館所蔵のものということで,たぶんこれかと。
Portret van een man (Jan van Eyewerve)
Portrait of Jacquemyne Buuck 97.5 cm ×71.2 cm
両方ともグルーニング美術館の所蔵。《卸商人夫妻の肖像》,対の夫婦の肖像画。
背景に塔と建物が描かれている。
もう一つの記述も上の肖像画に関するもので,背景にクレーンが描いてあること。
これはブリューゲルのウィーンのバベルの塔(1563年)にも描かれたもの。このクレーンはアントウェルペンのスヘルデ川に常設されていたという。
ピーテル・ブリューゲル バベルの塔 1563年 ウィーン美術史美術館
この画像ではわかりにくいが,塔の中段右側のところに,プルビュスの背景とそっくりなクレーンが描かれている。クレーンを描きこむのは1490年頃から現れ,プルビュスが描いたのはブリュージュの広場にあったものらしい。
というわけで、二か所とも片やファン・エイク,かたやブリューゲルという巨匠の作品のしかも細部の例証という扱い。画像も無し。
しかしよく見ればなかなか良い作品ではないだろうか? 少しずつプルビュスの作品も見ていこうと思っている。